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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」、アメリカでの最長1位記録更新は堅い? 特大ヒットに至った理由を考える

日本時間の昨日発表された、最新6月15日付米ビルボードソングスチャート。リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」が10週連続10週目のトップを獲得したことは昨日お伝えした通りです。

チャート速報後間もなく、米ビルボードTwitterアカウントから「Old Town Road」は何週間首位になる?という問いかけが。

このエントリーを記載している段階で最も多い回答が17週以上で、投票数の3割を突破。米ビルボードソングスチャート60年の歴史の中で、これまでの最長記録はマライア・キャリーボーイズIIメン「One Sweet Day」(1995-1996)およびルイス・フォンシ & ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー「Despacito」(2017)の16週。つまり、「Old Town Road」は史上最高を更新するだろうと考える方が多いのです。

 

では今後、「Old Town Road」はどこまで伸びるのか? 個人的に、17週はほぼ確実ではないかとみています。というのも「Old Town Road」がずば抜けた数字を残しているため。

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上記はこの1年近くの米ビルボードソングスチャートを制した楽曲の、首位獲得週における3指標の数値および順位をまとめたもの。昨年7月14日付以降としたのは、同日付よりストリーミング指標の計算方法が変更となったゆえ((追記あり) ドレイクも不利に? 米ビルボード、ストリーミング算出方法を7月13日付分から変更(5月3日付)参照。ビルボードジャパンの記事を元にタイトルを”7月13日付分から”と書きましたが、実際は7月14日付から)。これをみると、「Old Town Road」の数値が他の曲に対して如何に高いかがよく分かります。さらには、急激に落ち込むことがないどころか10週目の首位となった今週は全ての指標が上昇。これを踏まえれば、最長記録更新は間違いないと考える人が多いのは自然なことだと思うのです。

 

「Old Town Road」のヒットの流れを振り返ると、リル・ナズ・X最初のヒット曲は元々TikTokで人気に火が付いています。当初は人気のゲーム『レッド・デッド・リデンプション2』の映像を用いたミュージックビデオ(的なもの)が用意されていました。

「Old Town Road」はインダストリアル・ロックを代表するバンド、ナイン・インチ・ネイルズによる「34 Ghost IV」(アルバム『Ghosts I–IV』(2008)収録)をサンプリング。

カントリー要素が強い楽曲を用いたこと、TikTokで同曲を用いてカウボーイ風に振る舞う投稿が多いことなどもあってか、当初は米ビルボードがカントリーだと定義したものの、後にカントリーとして十分ではないことを理由にカントリーチャートから除外。その決定に異を唱えたカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスが加勢し、リミックスが制作されました。

「Old Town Road」はリル・ナズ・X単独バージョンで1位となりましたが、その翌週にビリー・レイ・サイラス参加のリミックス版が加算され、4月20日付でストリーミング新記録を更新、以下9週連続で同指標1億超えという前人未到の記録を更新しています(ストリーミングが1週間で1億超えを果たしたのはこれまで13週。「Old Town Road」は全体の7割近くを占めることに)。6月1日付ではミュージックビデオもストリーミングに加算され、加算初週には史上2位の記録を達成しました。

 

リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」、数値の上でも特大ヒットに至っていることがよく分かるのですが、爆発的な数値を獲得したのみならずそれを継続出来ている理由はどこにあるでしょう。無論TikTokの影響もありますが、それだけではないはずです。

 

① 尺が短いためスキップされにくい

「Old Town Road」の尺は、わずか2分37秒しかありません。

歌い出しまでに10秒強という数値も含め、ストリーミングでスキップされにくいタイプの曲になっていると言えるでしょう。

楽曲制作でスキップ(レート)を気にしすぎるのは健全ではないかもしれませんが、近年は2分台の曲のトップ10入りも当然となっており、マーケティングの面から「Old Town Road」の制作手法はアリだと言えます。ただ、リル・ナズ・X側がスキップ(レート)を見越して制作したかは不明。リル・ナズ・Xは3月23日にコロムビア・レコードと契約した(ことを発表した)のですが(Lil Nas X signed with Columbia. | Genius参照)、「Old Town Road」がメジャーレーベルの意向で2分台にしたとは考えにくいゆえ、偶然の産物なのかもしれません。

 

② とりわけ子どもに人気である

TikTok人気で若年層への人気は証明されたと思うのですが、「Old Town Road」の大ヒットを裏付けるニュースには若年層というよりも、子どもが登場するものがいくつか見られます。

ビルボードがカントリー要素が足りないことを理由にカントリーソングスチャートから下ろす出来事について、人種が理由ではないと弁明していましたが(TikTokからヒットしたLil Nas Xの カントリーラップ“Old Town Road”が「カントリーじゃない」という理由でカントリーチャートから外される - FNMNL (フェノメナル)(3月28日付)参照)、前回の大統領選で共和党が勝利したオハイオ州の学校では人種に関係なく多くの子どもたちが「Old Town Road」を合唱し、自由に踊っています。また自閉症男児が口ずさむ素晴らしい光景も観るに、「Old Town Road」が”素直に感じて楽しめる”曲であると感じられます。

日本ではよく、病院の待合室等で子どもが泣かないよう、親がスマートフォンタブレットでアニメを見せる姿を目にしますが、海外でもそういうことが、病院に限らず子どもを待たせたりあやすために用いることが当たり前になっているものと考えます。その際に用いるのは子どもが好む映像であり、「Old Town Road」はそれに合致したのではないかと(尤も待合室で騒ぐには好ましくありませんが)。ミュージックビデオ公開後にストリーミングが上昇しながら翌週下降傾向となることはチャートの常ですが(最も分かりやすいのはアリアナ・グランデ「Thank U, Next」の首位獲得4週目から翌週の推移)、「Old Town Road」のストリーミングが1億を切らないのはそれが理由かもしれません。

また、ビリー・レイ・サイラス加勢後の「Old Town Road」は、デジタルダウンロードセールスが69000を下回ったことがありません。保守的と言われるカントリーファンはストリーミングより購入を好む傾向があることから彼らが買ったとも言えるでしょうが、おそらく子どもに聴かせたいとして購入した方が多いのではと推測。子ども向けの曲といえば日本では「だんご3兄弟」「およげ!たいやきくん」等がおなじみですが、近年ではFoorin「パプリカ」が人気に。

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「パプリカ」のCHART insightから、下段はシングルCDセールス、デジタルダウンロードおよびストリーミングのみを抜き出したもの。「パプリカ」はストリーミング(青の折れ線グラフ)も強いものの(その一方で未だに動画再生が加算されていません。Foorin「パプリカ」がロングヒットの兆し…さらなるヒットのために改善すべき点が?(2月17日付)参照)、デジタルダウンロード(紫)は20位以内を、シングルCDセールス(黄)は40位以内を、最新6月3日付ビルボードジャパンソングスチャートに至るまで22週連続でキープ。CDの週間推定売上枚数は20週連続で1500枚を超えています。小学校の卒業式等各種イベントで子どもたちが「パプリカ」ダンスを披露すると伺ったことがあるのですが、その利用を目的としてストリーミングではなく購入行動を採る方が多いものと考えます。そしてアメリカでも同種の行動が生まれているのかもしれません。そうでなければデジタルダウンロードが全体的に下火になっている現状において高水準の数値を、9週連続で成し遂げることはあり得ないでしょう。子どもに人気の曲は特に購入の面で流行に左右されにくいことも、長期間人気を維持出来る理由と言えます。

 

③ ひとつのジャンルにとらわれない

ビルボードが「Old Town Road」をカントリーではないと判断したことは、言い換えればこの曲がひとつのジャンルにとらわれないということかと。カントリーとヒップホップはそこまで多くはないものの、カントリーとポップやR&B等他ジャンルの融合は、近年の総合ソングスチャートでヒットに至るひとつの潮流として既に確立されています。それらの楽曲は以前まとめて紹介しました。

さらにジャンルレスといえば、エド・シーラン「Shape Of You」も該当。この曲の世界中での大ヒット(そして日本でのロングヒット)の理由は、ジャンルレスがひとつの要因だと以前結論づけています。

複数のジャンルの融合は、双方のジャンルのファンから注目を集めます。ヒップホップのジャンルレス化における最善の例はロックとの親和性が高いポスト・マローンと言えるでしょうが、その彼はリル・ナズ・Xに対する一部カントリーファンからの非難に対し(暗に)擁護しています。

ポスト・マローンはこの5年で6曲を米ビルボードソングスチャートトップ10内に送り込み、うち3曲が首位に。最新週では自身の「Wow」およびスウェイ・リーとの「Sunflower (Spider-Man: Into the Spider-Verse)」がトップ10内をキープしており、他ジャンルとの融合を遂げたヒップホップ(メロディアス…むしろ歌っている傾向もまたジャンルレスのひとつと言えるかもしれません)の代表格と言えます。そのポスト・マローンに擁護されたということはリル・ナズ・X「Old Town Road」もまたジャンルレスな楽曲と認められた証拠かと。ストリーミングよりデジタルダウンロード(特にアルバム単位で購入するパターンが多い)やCDを購入する傾向が強いカントリーファンの人気を獲得したことで、デジタルダウンロードの数字も、またヒップホップが強くないとされるラジオエアプレイでも数値を伸ばしていると言えるでしょう。「Shape Of You」~ポスト・マローン~「Old Town Road」はゆるやかにつながっているというのが大袈裟かもですが自分の認識です。

 

 

これら3つの理由が、リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」が特大ヒットに至った要因と考えますが如何でしょう。日本ではヒップホップもカントリーも、ビルボードジャパンソングスチャートにおいてはマジョリティでないように見受けられ、ゆえに「Old Town Road」の認知度は今ひとつ高まっていないように思うのですが、「Old Town Road」のヒットの法則は日本でも活かせるのではないでしょうか。