イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本に韓国文化が浸透していることはチャートが証明してくれる…BTSのチャート動向から考える

もはや春の大型連休を代表するイベントと言っても過言ではない弘前さくらまつり。人気屋台に行列が出来るこの祭りで、お化け屋敷近くの唐揚げ屋や三忠食堂等、以前から人気の店舗に加え、"新顔"な食べ物の屋台2つ共に行列が…それがチーズドッグ。韓国発のと伺ったことがあり、テレビで観て気になったのですが、その列に断念した次第。

で、そのチーズドッグ等の人気を紹介した番組が放送直後に"炎上"しました。2ヶ月前のことですが、4月3日の『あさイチ』(NHK総合 月-金曜8時15分)で特集された【中高生の韓国人気】に対し、ネットでNOの声が目立つ形に。韓国語を学び書けるようになった方はヤラセだとか、中には"自分も学生だが、K-Popを聴く人はいない"というのもあり、最初はスルーしようとしていたものの、ビルボードジャパンソングスチャートを調べる身としては強い疑問を感じ続けたのです。

 

韓国と炎上という件で思い出されるのは、(ネガティブな書き出しで申し訳ありませんが)昨年末のBTSを巡る問題。そちらについては私見をツイートし、ブログエントリーに引用しましたが、この件を踏まえると今年BTSが新たにリリースしたミニアルバム『Map Of The Soul: Persona』およびホールジーをフィーチャーした「Boy With Luv」は日本で以前ほどの人気に至らないのでは?と思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし実際はきちんとチャートで結果を残しています。そこで『Love Yourself』シリーズ(2017-2018)からのリード曲の動向をみてみましょう。日本では後に日本語バージョンがリリースされた(される)のですが、韓国およびワールドワイドでリリースされてからの動向をチェックしてみると。

・「DNA」(from『Love Yourself: Her』(2017))

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・「Fake Love」(from『Love Yourself: Tear』(2018))

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・「Idol」(from『Love Yourself: Answer』(2018))

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・「Boy With Luv (feat. ホールジー)」(from『Map Of The Soul: Persona』(2019))

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初登場から5週間のポイントはビルボードジャパンソングスチャートから日付を選択して確認出来ますが、初登場時最もポイントが多かったのは「DNA」だったものの2週目以降は「Boy With Luv」が最多(2019年度以降チャートポリシー改正が行なわれたことも影響しているかもしれませんが)、またトップ10在籍週数において「Boy With Luv」は「DNA」同様最多の4週となっています。いずれの曲も発表当初に日本でシングル化されていないためシングルCDセールスおよびルックアップ指標が未加算であり他曲に比べて不利かもしれませんが(後に日本語バージョンのシングルCDがリリースされるとダブル(トリプル)Aサイドシングルの1曲目となる楽曲に2指標が加算されます)、英語よりも馴染みが薄いであろう韓国語曲がトップ10入りする状況となっています。なお、「Idol」にはニッキー・ミナージュをフィーチャーしたバージョンも存在し日本では客演なし版とは別加算となっていますが、そこまで大きなヒットには至れていません。

 

今回取り上げた4曲で特に強いのはストリーミングおよび動画再生、そしてTwitterの各指標。ストリーミングは「DNA」を除き、そして動画再生およびTwitterでは全曲がトップ3入りを果たしています。これらはいずれも”接触”を示す指標。昨年のビルボードジャパン年間チャートにおいて、歌手別のランキングとなる"TOP Artists"ではBTSが3位にランクインしましたが、年間チャート総括記事ではこのような記載が。

2018年の【TOP Artists】において、米津玄師はダウンロードで、2位のTWICEはストリーミングで1位となり、2017年はフィジカルとデジタルに揺れるJ-POPシーンがそのまま反映されたランキングだったが、今年は完全にデジタル領域でのシェア争いがランキングに大きく影響する展開となった。

(中略)

ダウンロードとストリーミング以外にデジタル領域で重要な指標となるのは動画再生だ。同指標では、1位TWICE、2位米津玄師、3位BTS防弾少年団)となり、楽曲を使用した動画再生数の総合計は、TWICEが7億5千万回、米津玄師6億5千万回、BTS3億7千万回に。動画でのヒットが大きく合計ポイントを押し上げたaことがよく分かる結果だ。

ビルボードジャパン 2018年 年間ランキング発表~【HOT 100】は米津玄師「Lemon」、【Hot Albums】は安室奈美恵『Finally』が首位 | Special | Billboard JAPANより

無論”所有(購入)”も寄与してのTOP Artistsランクインとはいえ、BTSやTWICE等K-Popの中で突出した人気を誇る歌手は特に接触指標群が強い傾向がみられます。また接触指標群のうちストリーミングについて、昨年調査した内容が今年2月に発表されているのですが、主に若年層ほどストリーミングを使用する割合が高く、またストリーミングのみ利用する(デジタルダウンロードやフィジカルでの購入は行わない)方が増えているとのこと。

『コンテンツファン消費行動調査2018』によると、ストリーミングサービス(Apple Music, Amazon prime music, LINE MUSICなどの有料の定額制音楽配信サービス)の利用率は24.6%で、推計2145万人という結果となっている。さらに、ストリーミング利用者、CD利用者、ダウンロード利用者のいずれかの利用者を対象に、重なりを図示化したのが図1だが、3つの利用者のうち、「ストリーミングサービスのみ利用者」が最も多いこと、ストリーミングサービス利用者全体では実に70%を超えることがわかる 。さらに各利用者の性年代構成比(図2)を見ると、若年層ほど利用率が高く、全体と比較して10-20代は約4ポイント高い。

ストリーミング時代到来! 2018年ヒットチャートをデータとともに振り返る | コラム | SPECIAL | 博報堂 HAKUHODO Inc.(2月4日付)より。図はリンク先をご確認ください。

ストリーミングには有償サービスもあれど無償版も存在。また動画再生は基本的に、Twitterサービスもまた無償。広告が多かったり使い勝手が制限されるもののそれらを気にしなければ無償で十分使える…と考えるのは何も若年層には限らないと思うのですが、可処分所得スマートフォン(もしくはスマートフォンのみ)の浸透状況を踏まえれば、若年層がストリーミングに飛びつくことは自明ではないでしょうか。その接触指標群でK-Popが、それも彼らにとって母国語となる韓国語で歌った曲群がヒットし総合チャートでも結果を残しているのですから、"浸透していない"というのは正しくないと言っていいと思います。

 

さらに注目すべき点は、「Boy With Luv」のラジオエアプレイ指標における安定感。ランクイン2週目以降、6週連続で同指標トップ100内に在籍しているのです(初登場週にランクインしなかったのは、リリースが金曜日であり初週の集計期間が3日しかなかった等も考えられます)。昨年のBTSにおける問題を振り返るに、メディアが視聴者等の過度な反発を恐れて彼らの起用を見送ったとのでは?というのが自分の見方ですが、そこから半年が経過しメディアはきちんと彼らの楽曲を用いるようになったというのがラジオエアプレイ指標から証明されたのかもしれません。尤も、7月3日に「Boy With Luv」および「Idol」の日本語バージョン且つ日本オリジナル楽曲の「Lights」を収録したシングルをリリースするBTSを当の『ミュージックステーション』が起用するかは分かりませんが、たとえば今後発売される雑誌『CanCam』および『anan』への表紙起用が決定しており(BTSが「CanCam」「anan」表紙に登場、ツアー中のロサンゼルスで撮影 - 音楽ナタリー(5月21日付)参照)、ラジオおよび雑誌メディアはきちんと起用していると言っていいでしょう。そして雑誌のターゲット層を踏まえれば、表紙起用は若年層が好感触を持つということの証かもしれません。実際、若年層の韓国への印象は年配者と比べて断然好いという調査結果も出ています(若者は「親しみ」、年配は「嫌い」…韓国への世代間ギャップ(産経新聞) - Yahoo!ニュース(6月4日付)。個人的には、記事の〆の一文に登場する方の言葉、そして産経新聞の記事の結論の付け方には疑問を抱くのですが)。

 

 

K-Popに限らず韓国(文化)に関してはアンチが多いように見受けられ、攻撃対象とされる方々が過ちを犯すと(それが過去のものだとしても関係なく)炎上上等だとする態度が目立つのですが、昨年の問題においてはBTSの過去の態度が正しかったとはいえないのは解れど、では良好な関係を築くにはどうすべきか等を考えようとする気概を持たずにただ叩くだけという、韓国嫌いという私的感情を社会的正しさだとして(すり替えて)主張する方の感覚に引っかかりを覚えます。そしてそのような、批判ではない非難に埋没することなく「Boy With Luv」がヒットに至れているのは、若年層を中心にきちんと評価している方がいるという何よりの証拠と言えるでしょう。

今回書くにあたり、Twitterに蔓延り消えない感情論がひとつの契機になりました。嫌いとか気に入らないとかからくる論調には、客観的な数値でひとつひとつ立証していかなければと思っています。それでも嫌いであるという感情を拭えないのならば、”自分は聴かない”という選択肢を採ればよいだけではないかと思うのです。