id:shogomusicさんによるブログ、選択の痕跡にて、非常に興味深い内容が。それは【エド・シーラン、どこでそんなに聴かれているの?問題】というもの。
本当に聴かれているかどうかは、ビルボードジャパンのチャートアクションをみると一目瞭然です。「Shape Of You」のCHART insightを下記に。
これを登場からの90週と、最新週までの60週に分けて再掲載します。
2017年1月23日付のビルボードジャパンソングスチャートで初めて100位以内となる22位にランクインしてから、現在に至るまで一度も100位圏外となることなく在籍(総合チャートは黒の折れ線グラフ)。それどころか60位すら切ったことがありません。特に牽引しているのがストリーミング(青のグラフ)および動画再生(赤)の両指標であり、この2年以上如何に”接触”という側面で人気となっているかが判ります。とはいえ2017年はラジオエアプレイ(緑)、そしてデジタルダウンロード(濃い紫)も高く、所有(売上)も多くなされた楽曲ではあります。
ではなぜ、今に至るまで多く接触され続けているのか? 自分なりに考えてみました。
まず、「Shape Of You」がそもそもヒットに至った要因を振り返ると。
2017年のビルボードジャパンソングスチャート年間トップ3入りについては、春の全世界的大ヒット→夏ドラマに起用→秋の来日公演中止(も話題に)…という3つのフェーズで畳み掛けたこと、相撲レスラー出演且つロッキーオマージュなMVが影響かと。前者については以前書きました https://t.co/O3NLTd4efx https://t.co/APe1JkQhSg
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) May 25, 2019
「Shape Of You」はアメリカのビルボードソングスチャートで年間1位、イギリスも1位、ここ日本では2位を記録するなど全世界で大ヒットを記録。日本で洋楽が年間2位を獲得することは異例ですが、「Shape Of You」がリリースされた2017年1月6日から程なく、月内に来日し同曲をパフォーマンスしたことが認知度等の上昇に寄与したと考えられます(いずれも日本テレビの『スッキリ』、および『NEWS ZERO』に出演)。
アメリカではデジタル解禁→ミュージックビデオ解禁→収録されたアルバムリリースという流れでロングヒットに。日本では2017年夏に窪田正孝さん主演のドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ)の挿入歌に起用され、ビルボードジャパンソングスチャートでは2017年8月21日付から12週連続でトップ10入り(その際、最高位となる4位を記録)、秋の来日公演が延期になるもそこでも勢いが落ちることはありませんでした。結果、2017年度は日本で年間2位となり、翌年はラジオエアプレイやデジタルダウンロードが落ち着きながらも先述したようにストリーミングおよび動画再生の両指標が牽引し年間14位と、ロングヒットに至っているのです。
ではなぜそこまでロングヒットが続いているのでしょう。自分なりに考えてみると。
① ミュージックビデオが面白く、再生回数を増やしている
『ロッキー』などを彷彿させまたラブロマンスも垣間見える前半、そして敵の正体が分かると一転して主人公がコテンパンにされるコミカルな後半という画がインパクト強く、リピーターを増やしているものと推測。敵役には”YAMA”こと元力士の山本山(龍太)さんが参加しており、日本人でも親しみやすい内容となっています。ミュージックビデオは現在までに再生回数が42億を突破し、モンスター級の作品に成長しているのです。
② ストリーミングのプレイリストに多数引用されている
今朝の段階でApple Musicで曲名検索すると、Apple Musicが選曲したものをはじめ実に37ものプレイリストに「Shape Of You」が起用されていることが判ります。
各国別のヒット曲という括りだったり、ランニングやエクササイズといった運動のBGM(それこそミュージックビデオ的アプローチ)やパーティミュージックとして用いられています。加えて、97もの共有プレイリストにも選曲される人気っぷりなのです。
これを他の曲と比べてみると、たとえばDAOKO×米津玄師「打上花火」も2年連続大ヒットしていますが(ビルボードジャパン年間ソングスチャートにおいて2017年度は3位、2018年度は4位)、ストリーミング配信済の同曲を曲名検索するとApple Musicにおけるプレイリスト起用は13、共有プレイリストでの引用は16であり「Shape Of You」のほうが圧倒的に多いことが判明。また2010年代を代表する洋楽のひとつ、ファレル・ウィリアムス「Happy」はApple Musicにおいて38のプレイリストに起用。わずかひとつしか違わないということは「Happy」に匹敵するだけの人気を誇っているということが言えるかもしれません。
これら多数のプレイリストに用いられることで、たとえ「Shape Of You」目当てにチェックしたつもりはなくともプレイリスト経由で「Shape Of You」を聴く方が多数存在するかもしれません。またストリーミングではなくとも、”2010年代を代表する洋楽”などのテーマでCDショップやレンタル店、メディアで特集が組まれることも少なくないと思われ、接触や所有の上昇につながっていることでしょう。
③ 曲調がジャンルレスであり使い勝手が好い
ラジオ番組のBGMに「Shape Of You」のインストゥルメンタル(ボーカルレス)が用いられているのを今でも耳にします。ヒップホップのオケとして使われても何ら違和感ないよなあと思ったことがあるのですが、それもそのはず、ヒップホップなど様々なアプローチによるリミックスが多数制作されているのです。
3rdアルバムとなる最新作の➗は今年大ヒットしているShape of youがやっぱり欠かせないんじゃないんでしょうか、この曲はRemixをたくさん出していてDiplo率いるDJユニットMajor lazerやイギリスのグライム・ラッパーのStormzyなどとのコラボもあって人気にどんどん火がついていったように感じます。
Shape of youの印象はEd sheeranぽさを残しつつも今まで通りラップを取り入れたり、今流行りのトロピカルハウスな感じも入ってて✖️からの踊れる感じをより進化させてきた感じですね。
・いまさらだけどEd sheeranは凄すぎてジャンルがもはやわからない。 - NAVSICK(2017年9月18日付)より
(※ 勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除いたします。)
メジャー・レイザーのリミックスはヒップホップぽさも強調しながらEDMを取り入れたり、トロピカル感も増幅、ストームジーは基本のオケはそのままに彼の声が入るだけでよりタイトになる印象があり、さらにはラテンリミックス等も存在します。「Shape Of You」は元来Aメロの歌い方がラップっぽかったこともありますが、どんなジャンルにも化けられるタイプの楽曲だということが、多数のリミックスにより証明されたように思います。これはドラマティックだったり起伏のある楽曲では難しく、いい意味で展開の乏しいオケだからこそ成し得たものだと考えられます。またその使い勝手の好さからラジオ局や番組でも愛され、現在でも時折ラジオエアプレイ指標で300位以内に入るという状況です。
④ 日本のソングスチャートにはアメリカにおける”消える”ルールが存在せず、ヒットが可視化されている
消えるルールこと、リカレントルールというものが米ビルボードソングスチャートには存在します。
リカレントルール……これはアメリカのシングルチャート、Hot 100にてヒット曲に「引導を渡す」ためのルールです。
(中略)
シングルチャートに新しい曲のための枠を確保するために、このリカレントルールというものがあります。具体的には
・21週目以降、51位以下に落ちたらチャートから外れる
・53週目以降、26位以下に落ちたらチャートから外れる
という2種類のルールが設定されています。このルールによってチャートを外れた曲は特別な再浮上が無い限りチャートに再登場はしません。
・ヒット曲の最終的なHot 100成績 【リカレント2018】 - チャート・マニア・ラボ(2019年1月17日付)より
(※ 勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除いたします。)
これにより、「Shape Of You」は米ビルボードソングスチャート、2018年3月3日付の24位を最後に、通算59週でチャートから外れてしまいました。仮にこのリカレントルールがなかったならばもっと長く在籍したのは自明ですし、これまでロングヒットを続けた他の曲も同様だったように思われます。
他方日本のビルボードジャパンソングスチャートでは現状において、このリカレントルールは導入されていないはずです。他方、2019年度からはカラオケ指標も導入され、時代を超えて愛される楽曲はむしろロングヒット出来るという環境となり、カラオケ指標の登場により日本でリカレントルールを敷く可能性はより低くなったように思われます。仮にリカレントルールがあったとしても「Shape Of You」は未だにストリーミングおよび動画再生の両指標が高いわけですから、チャートに載らなくとも支持を集め続けていることに間違いはありませんし、最新5月27日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて100位以内在籍通算100週以上の楽曲が「Shape Of You」(32位 123週目)を含め5曲と多くはないことを考えるに、日本でリカレントルールを敷く必要性は低いと言えるかもしれません。ソングスチャートでヒットが可視化され、そこで「Shape Of You」を知った方がストリーミング等を介して聴くという流れが生まれているはずです。
これら①~④が、「Shape Of You」をロングヒットに至らせている要因ではないかというのが自分なりの結論です。
おそらくこの「Shape Of You」、④で紹介したリカレントルールがビルボードジャパンソングスチャートに用いられない限り、まだまだヒットを続けることでしょう。では仮に「Shape Of You」の勢いを阻止したいと考えるならば、必要なのは「Shape Of You」を上回る大ヒット/ロングヒット作品を生んで「Shape Of You」をチャートから押し出すこと、「Shape Of You」への興味を減らしていくことではないでしょうか。極めて難しいことは承知ですが、そのためにはストリーミングと動画再生という2つをきちんと解禁(後者においてはフル尺で掲載)し、「Shape Of You」と同じスタートラインに立つことが大前提となることは間違いありません。