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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アイドルからアーティストへ…山本彩「イチリンソウ」のチャートアクションに見る変化、そしてさらなる上昇に必要な動画対策を考える

NMB48を卒業後初の楽曲でありシングルとしては初リリースとなる、山本彩イチリンソウ」のチャートアクションが興味深いので紹介。NMB48時代のラストシングル「僕だって泣いちゃうよ」とは明らかに異なっています。

山本彩イチリンソウ」(4月17日発売)

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NMB48「僕だって泣いちゃうよ」(2018年10月17日発売)

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チャートの最高位こそシングルCDセールスが初加算された週であるのはアイドル時代もソロとしても同じであり、「僕だって泣いちゃうよ」が昨年10月26日付で首位を獲得したのに対し「イチリンソウ」は4位が最高(4月29日付)ゆえ、「僕だって泣いちゃうよ」のほうがヒット…とは言い難く、シングルCDセールス加算2週目における総合ポイントの前週比をみると「僕だって泣いちゃうよ」が8.0%に対し「イチリンソウ」が35.0%と如実な差が。2019年度からカラオケ指標が導入され、また各指標のウェイト変更があった可能性もあり単純比較は出来ないとしてもこの前週比の差は歴然であり、女性アイドルグループにおいて前週比の比率が高い坂道グループ(昨年以降のシングルでは20%強から30.2%の間で推移)と比べても、35.0%というのは驚異的。「イチリンソウ」の動きはアイドルのそれではないように思われます。

CHART insightを見ると、「イチリンソウ」が「僕だって泣いちゃうよ」に比べて明らかに上回っているのはラジオエアプレイ。「僕だって泣いちゃうよ」が最高90位だったのに対し、「イチリンソウ」は今週まで4週連続で2位を記録。卒業後初シングルという話題性、また表題曲を亀田誠治さんがプロデュースしたことによる質の高さ(が保証されていると見越してOAされたこと)が見て取れます。 また「イチリンソウ」は前週および今週、ストリーミング指標が加算されています。2週続けて同指標は100位未満(300位以内)ではあるのですが、今週の総合ポイントに占めるストリーミングの割合は5%超えと決して小さくありません。ストリーミングは”接触”を示す指標であり、この指標でのポイント獲得が続けばロングヒットとなる可能性もあります。接触といえば、「僕だって泣いちゃうよ」は2週ともシングルCDセールス指標の順位がルックアップのそれを常時上回っていますが、「イチリンソウ」ではシングルCDセールス指標が3→28位と推移したのに対しルックアップ指標は5→22位と逆転。パソコンにCDを取り入れる際のインターネットデータベースへのアクセス数を示すルックアップは、購入者がどれだけ取り入れたかに加え、CDレンタルの状況も想像できる指標ゆえ、CDレンタルという接触の高さにもアイドルからの変化が表れていると考えていいのかもしれません。

アイドルがソングスチャートにおいてシングルCDセールス指標初加算週にジャンプアップしながら翌週急落することが多いのは、シングルCDをグッズやイベント参加券の意味合いで購入する方も多いゆえ。このような”所有”(デジタルダウンロードも含まれますが、アイドルにおいてはシングルCDが大半)ではなく、接触が増えれば初加算週以降急落する可能性が低くなる傾向があることは以前から述べています。「イチリンソウ」においてはストリーミングは低いながらも加算されており、楽曲や歌手を気になっている(しかし購入には至っていない)、弊ブログで形容するところのライト層が能動的に、またラジオを介して受動的に接触していることが、ポイント前週比やCHART insightから解るのです。

 

ただひとつ、惜しいと思うのは接触の一要素である動画再生指標が、「イチリンソウ」では加算されていないということ(これはNMB48「僕だって泣いちゃうよ」においても同様ではあるのですが)。非常に勿体無いと思うのですが、先に引用したYouTubeのミュージックビデオがショートバージョンであることに加え、「イチリンソウ」がアップされているYouTubeアカウントが、山本彩さんの公式ではなく所属(移籍先)レコード会社のユニバーサルミュージックジャパンだということも影響しているものと考えています。

移籍云々に関係なく、またユニバーサルミュージックジャパンのみならず他のレコード会社でも、ミュージックビデオが歌手個人の公式YouTubeアカウントではなく所属レコード会社のYouTubeアカウントにて公開されていることは少なくありませんが、所属レコード会社発ということには疑問が。たとえばその歌手が後に移籍したとして、移籍後の歌手の動向しか知らない方がYouTubeで検索する際に面倒なことが起きかねないのではと思うのです。これは、レコード会社を移籍した後にベストアルバムを制作しようとしても移籍前の会社のオリジナル音源が使えないため新録音版を収録せざるを得ないという構図と似たものが根本にある気がします。

また山本彩さんは以前から公式YouTubeアカウントを所有しているのですが、こちらには「イチリンソウ」の動画がアップされていません。

レコード会社と歌手の公式YouTubeアカウント双方で動画が公開されていることもあり、その一例として以前Mrs.GREEN APPLEを挙げたのですが、今回はそのような状況になっておらず、山本彩さんの公式YouTubeチャンネル最後の動画は新年の挨拶のままです。

移籍時に何かしらの条件等が交わされたことによりこのような事態が生じたのかもしれませんが、山本彩さんの活動を公式YouTubeチャンネルでチェックしていた方からすれば、その不便さを疑問に思うのではないでしょうか。このような事態が、再生回数が伸びなかった原因と捉えています。

 

ミュージックビデオ公開時のショートバージョン問題について、Mrs.GREEN APPLEを取り上げたエントリーの際、レコード会社に対して以下の提案を書きました。

ミュージックビデオは"商品"である、というのは理解出来ます。収録された映像盤をCDに同梱することが自然なことである日本(市場)においては、映像盤が購入の動機のひとつとなるゆえ尚の事です。しかしそれはあくまでCDを売るための施策としての"商品"という位置付けが主体になりすぎてはいないかと。デジタルダウンロードやストリーミングにつなげるための"プロモーション"(そして、ビルボードジャパンソングスチャートではそもそも動画再生がカウント対象となります)、そして歌手の芸術性を提示したり、その存在を日本のみならず諸外国へ発信する等、大袈裟かもしれませんが"文化"という意味合いで用いなければ、フル尺公開が常という諸外国側が日本のドメスティックなやり方を疑問視し触れたくても敬遠する可能性がありますし、逆に日本の音楽を世界に放つことも出来にくくなります(デジタル興隆により、音楽をフィジカルで輸出する必要がなくなったゆえ尚更)。無論チャートアクションにも影響するわけで、その点をレコード会社等は考えていただきたいと思います。

Mrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」がトップ10ヒットに至れなったことから考える、日本におけるミュージックビデオの位置付け問題(4月21日付)より

歌手個人の公式YouTubeアカウントでの発信が成されない(認められていない)と推測出来る今回の事態もまた、似たような雁字搦めの発生源と思えてなりません。歌手の飛躍の陰にレコード会社の努力は大きくあれど、ファンはレコード会社ではなく歌手につくのではないでしょうか。所属(する/していた)歌手やミュージックビデオを”商品”と捉えすぎないやり方を、レコード会社には強く考えていただきたいと思います。