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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

King Gnuをさらなるステップアップに結実させた、「白日」リリースに関するスタッフの巧みな戦術

最新3月11日付ビルボードジャパンソングスチャートで特筆すべきチャートアクションを起こしている曲のひとつが、King Gnu「白日」。ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ 土曜22時)主題歌に起用されたこの曲は彼らにとって初のトップ10入りとなりましたが、今週は前週よりさらに順位を上げ、7位をマークしています。

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リリースから間もなく、先月末日に公開された音楽ジャーナリストの柴那典氏による「白日」の分析は、曲の魅力を見事に表現しています。

同時に、チャートアクションの好調さも記事では示していますが、弊ブログではビルボードジャパンソングスおよびアルバムチャートの観点からKing Gnuの好調さをみていきます。

 

個人的には、「白日」のリリースタイミングが実に面白いと思うのです。

そう思う理由のひとつは、アルバム『Sympa』リリースから間もないうちにアルバム未収録の新曲として「白日」をドロップしていること。元来King Gnuは好事家を中心に評価を得ていて、今年1月20日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日 日曜23時10分)で蔦谷好位置氏が昨年の年間トップ10に彼らの「Prayer X」を選んだり、1月4日放送の『バズリズム02』(日本テレビ 金曜24時59分)で彼らが【これはバズるぞ!2019】ランキングで首位に選ばれたこともあり、1月16日リリースのアルバム『Sympa』は1月28日付ビルボードジャパンアルバムチャート(集計期間は1月14~20日)で総合4位に初登場を果たしています。

本来ならば、そのアルバムからの曲をドラマ用にシングルカットして(近年のアメリカではリミックスや、客演を新たに招いたバージョンを制作することが多い)、リリースしたばかりのアルバムに視線を集中させないと、アルバム直後に未収録の新曲を発売することは焦点をぼやかせかねないのでは?と思っていたのですが、蓋を開けてみれば「白日」は先述したように彼ら最大のヒット曲に、そして『Sympa』は前週のアルバムチャートで総合42→25位に再浮上。アルバムCDの週間売上枚数は前々週の1423枚(45位)から1700枚(42位)→2294枚(37位)と伸びています。アルバム直後の「白日」リリースはアルバムをも押し上げ、双方に光が当たる結果となりました。『Sympa』のチャートアクションは下記に。

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「白日」のリリースタイミングが面白いと思うもうひとつの理由は、「白日」のリリース日の設定。白日はドラマ放送日の前日、2月22日金曜にリリースされています。この発売日については2月8日の段階で既にアナウンスされていました。

そして発売当日、King Gnuは『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)に初出演を果たします。

現段階でTwitterにて彼らを検索すると、関連ワードの筆頭に"Mステ"が登場するくらい、番組で強烈なインパクトを残したKing Gnu。披露したのは「白日」ではなく、『Sympa』収録の「Slumberland」であり、ここで「白日」を披露しなかったのは他局のドラマ主題歌だったこともあるかもしれませんし、『Sympa』がヒットしたゆえそこからの曲を披露してほしいと番組側がお願いしたのかもしれません。しかしながらドラマ主題歌の発売日が『ミュージックステーション』出演日に合うというのは、認知度の上昇およびチャート効果に如実に反映されたはずです。

ドラマ主題歌を配信で(先行)リリースする場合、主に2つの解禁タイミングが考えられます。ひとつはドラマ放送の直後(もしくは翌日の午前0時)、もうひとつはドラマ放送の曜日に関係なく月曜午前0時。後者においては、昨年から今年にかけて1年以上ビルボードジャパンソングスチャートトップ10をキープする米津玄師「Lemon」や、シングルCD未リリースながら同チャートを制した星野源「アイデア」が用いており、ビルボードジャパンソングスチャートで強烈なインパクトを残すには集計期間をフルに活用出来る月曜午前0時の解禁が有効です。

しかしながら「白日」は金曜解禁となりました。ドラマの視聴率も悪くない中で今回の設定日を用意したのはほぼ間違いなく、『ミュージックステーション』初出演によるKing Gnu認知度上昇に合わせてであり、番組を観て気になった方を『Sympa』および「白日」に誘導するための施策だったのではと考えます(そうでなければ、ドラマ主題歌解禁タイミングのセオリーを逸脱する理由が考えにくいのです)。もしかしたら2月8日以前に『ミュージックステーション』初出演が決まっており、初出演日に合わせて「白日」のリリース日を設定したと考えることも出来ますね。

 

 

柴那典氏は昨日、以前の分析から一部を抜粋し、ツイートしています。

一方で、『Sympa』から「白日」に至るまでの間、レコード会社や芸能事務所は、『関ジャム 完全燃SHOW』や『バズリズム02』の追い風を用いつつ、King Gnuを如何にステップアップさせるか考え続け、【アルバムリリース直後に未収録曲をリリース】【ドラマ主題歌の解禁タイミングを金曜に設定】という、従来のセオリーからは考えにくい施策を用意し、バズを生むことに成功しました。バズを作ったその一因は彼ら自身の『ミュージックステーション』における強烈なインパクトにもありますが、最終的に彼らの楽曲群の格好良さ、それこそ柴氏が言うところの『自らの美学を研ぎ澄ましその強度を世に問うようなクリエイティブ』をより広く伝えることにスタッフが尽力した…その成果がここ2週のチャートアクションに如実に表れているというのが自分の見方です。極端に言えば、クリエイティブの創造は歌手側の仕事、そしてそれをより広範囲に伝えるマーケティングはスタッフの仕事であり、その両者が巧く結実したと捉えることが出来るでしょう。