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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

動画再生指標の上昇が新しいヒットの手法に…しかし邦楽では厳しい? 2月18日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

2月4~10日を集計期間とする2月18日付チャートが昨日発表されたビルボードジャパン。Kis-My-Ft2「君を大好きだ」が、IZ*ONEの日本デビュー作となる「好きと言わせたい」を僅差で交わし首位に。ジャニーズ事務所所属グループとしては前週のジャニーズWEST「ホメチギリスト」に次ぐ2連覇を達成しました。

しかしながら気掛かりな点が。今週の1位、2位共に。

実際、前週初登場で20位以内に入った9曲のうち、今週も20位以内をキープしているのはわずか2曲しかありません。

前週の9曲中、1指標、それもシングルCDセールスもしくはデジタルダウンロードという"所有"に関連した指標のみで総合ポイントの過半数を占めた曲が実に8曲もありました(残る1曲もほぼ5割という状況)。

が、その中で今週チャートを上昇したのはONE OK ROCK「Wasted NIghts」のみ(14→6位)。同曲は今週リリースのアルバムの先行曲という位置付けもあり、アルバムの機運が高まる流れで上昇したことになるでしょうが、とはいえ他に上昇はおろかキープした曲がないのは寂しい限り。所有指標に特化した(総合ポイントの過半数が占められた)曲が、ストリーミングや動画再生指標等、"接触"に関連した指標をどう上げるかが複合指標チャートの勝負どころであることが解りますし、その意味ではKis-My-Ft2もIZ*ONEも次週どうなるか…私見と前置きしますが、懸念しているところです。

 

 

さて、前週のチャートでいきなり動画再生指標トップに立ったのがダイナソーJr.「Over Your Shoulder」。総合でも18位に登場したこの曲は今週69位に急落も、動画再生指標は5位にとどまっています。同じく前週急伸した楽曲の動画再生指標をみると、U2「One」が5→29位、マッチボックス・トゥエンティ「If You're Gone」が6→56位、アズテック・カメラ「The Belle Of The Ball」が14→37位(いずれも総合チャート100位未満)。このチャートアクションの不思議については前週、推測と前置きした上でブログに記載しました。

この動画再生指標急上昇の件について、ビルボードジャパンが昨日、ダイナソーJr.「Over Your Shoulder」を中心に取り上げ、見解を発表しています。

同曲がいきなり上位にチャートインしたのは、先日某バラエティ番組で取り上げられた地上波番組コーナーが一般ユーザーによってYouTubeにアップロードされ、そのBGMとして使用されていた同曲の再生回数がカウントされたことによると思われる。大きく数字を伸ばした動画自体は前週調査した時点ですでに削除され視聴することはできないが、いくつか関連動画が残っているため当週も再生数を伸ばしているものの、前週ほどの勢いは衰えつつあるようだ。

【ビルボード】Kis-My-Ft2「君を大好きだ」が3冠で総合首位獲得 総合2位のIZ*ONE「好きと言わせたい」とわずか約250ポイント差 | Daily News | Billboard JAPAN(2月13日付)より

おそらくは自分の推測がほぼ間違っていなかったことに。とはいえ『TOKIOカケル』でガチンコファイトクラブが言及された2月6日が集計期間となる今週のチャートでは意外に伸びなかったなあと思うのですが、違法アップロードの指摘を受け削除されたことで、動画がきちんと観られなくなったことが影響しているのでしょう。

ただ今回の出来事が、今後のヒットの作り方のヒントになったのではないでしょうか。

一般ユーザーによる既存楽曲を使用した動画は、その楽曲の使用が権利者によって禁止されていない限り、このような使用によって再生回数を伸ばすことは可能だ。ただし、映像自体が無許諾である場合、削除対象となる。本件は、一般ユーザーがアップロードした楽曲や動画についてYouTubeのシステムが十分に機能していることを示し、権利侵害とならなければ新たなバズを生みだし、メディアに報じられることでそれを一層拡大させることができた一例と言えるだろう。

【ビルボード】Kis-My-Ft2「君を大好きだ」が3冠で総合首位獲得 総合2位のIZ*ONE「好きと言わせたい」とわずか約250ポイント差 | Daily News | Billboard JAPAN(2月13日付)より

自分もガチンコファイトクラブが要因と推測した2月10日付ブログの締めに、似た意見を記載。こちらはテレビ映像に関する指摘ではありますが、『動画の違法性の問題視は勿論必要なことですが、コンテンツを持つ側が著作権をきちんとクリアにした上でYouTubeにアップすることも今後求められるかもしれません』と書きました。

 

さて、この権利関係をクリアしたと思しき動画によって、新たなヒットが今週生まれています。

今週の動画再生指標を賑わせたのがDJで音楽プロデューサーのマシュメロ。

実はアメリカで、バスティルをフィーチャーした「Happier」が最新2月16日付米ビルボードソングスチャートで8→2位へジャンプアップしたのですが、日米共にマシュメロの楽曲を押し上げたのは、ゲーム『フォートナイト』が2月2日土曜に開催したヴァーチャルライブに彼が登場したことでした。

上記ブログエントリー内リンク先ではヴァーチャルライブ直後のマシュメロの楽曲の、おそらく世界における急上昇の度合いを紹介する記事を貼付しましたが、日本での動向は下記に。

こちらのYouTubeチャートは2月1日から7日を集計期間とするためビルボードジャパンのそれと若干ずれますが、ライブの余韻が8日以降も続いたものと思われます。

この『フォートナイト』で披露されたヴァーチャルライブの模様は、同日中にマシュメロの公式YouTubeチャンネルに登場しており、現段階でおよそ2384万回の再生回数を記録しています。

この動画には「Alone」や「Happier」等が登録されており、この動画を観たことで登録楽曲の再生回数が伸びるのみならず(これはガチンコファイトクラブと似たカウントアップ手法と言えるでしょう)、この曲を気に入った方がライブで用いられた楽曲を彼の公式YouTubeチャンネルで聴くことでその再生回数も各楽曲にカウントされることに。そしてなにより、上記動画は『フォートナイト』の権利関係をクリアしているだろうからこそマシュメロの公式YouTubeチャンネルに掲載可能なんですよね。

 

このヴァーチャルライブによる動画再生指標上昇→総合チャート急伸という流れもまた、新たなヒットの手法と言えるでしょう。ダイナソーJr.を例とするガチンコファイトクラブとの違いは、権利関係をクリア出来ているかどうか。そういえば昨日ブログに掲載したゴスペルライブの動画に関しても、放送したBETの公式YouTubeチャンネルに掲載されており(ただこの場合、各動画には楽曲が登録されていないのですが)、放送等したものを歌手/局の公式YouTubeチャンネルできちんと掲載するという流れは外国ではデフォルトになっているようです。

そういえば昨日のBLACKPINKの記事で紹介された米番組でのパフォーマンスの模様も、番組公式YouTubeチャンネルで視聴出来るようになっています。

これらの例を日本に置き換えるならば、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)や『スッキリ』(日本テレビ)等でパフォーマンスした映像が、その日のうちに放送局や歌手の公式YouTubeチャンネルに掲載されるということですが、日本でこのようなことが出来るかと言われれば極めて難しいというのが現状でしょう。肖像権等の問題もあるでしょうが、何より難解な著作権法が立ちはだかっているような気がします。その流れで書くならば、著作権法をより雁字搦めにしかねない改正の流れが昨日報じられました。

2004年の輸入盤CDが手に入らない可能性を否定できなかった同法改正から追いかけている身には、あくまで私見と前置きして書くならば、著作権法がネット時代に即して変わることも、また広く国民に著作権とは何かを普及させる動きもないまま、ただ権利者の一方的な権利ばかりを強く守ることを目的に、あたかも違法建築物かの如くその都度付け加えられているかのような印象があります。一度柔軟な見方で、時代に即した対応を行わないと、マシュメロやBLACKPINKのようなアップロードは日本においては夢のまた夢でしょうし、国内はもとより海外に日本の楽曲を輩出することは極めて難しいのではないかと思うのです。

 

この2週のビルボードジャパンソングスチャートで、動画が急激に再生回数を上げることで動画再生指標および総合チャートが上昇することがよく解りました。ただ、取り上げた2つの例は違法アップロード、および海外の作品(日本でも観ることは出来ますが)であり、仮に邦楽で同種の仕掛けを行いたいと思う歌手やレコード会社があったとして、しかし日本の柔軟性のない法律等に為す術ないと思っているのではないかと…そう考えると、邦楽ではしばらく今回のヒットの施策を用いることは難しいのではないかと悲しみ、現状の権利に関する環境を訝しむ自分がいます。