先週木曜放送の『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜 18時)で、音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏による洋楽紹介企画がスタートしました。その月にリリースされたお勧めの新譜を紹介するその冒頭で、日米の音楽チャートの違いについて触れています。時間の関係上詳細な説明が出来なかったかもしれず、勝手ながら自分はリアルタイムで聴取しながら補足ツイートをしていたのですが、今回はその補足をまとめてみようと思います。
コーナーについては、文字起こし職人のみやーんさんが書き起こしされていますので、そちらより引用させていただきます(問題があれば削除させていただきます)。
(宇多丸)なんだけど、ビルボードチャートはラジオのオンエア回数であるとか、いまだとストリーミングの再生回数とかをカウントするからやっぱり、よく聞かれている曲というのはしばらくの間……。
(高橋芳朗)そう。だからアメリカのチャートは1回ヒットした曲は結構長くチャートの上位に留まる。そういう傾向にあります。
(宇内梨沙)という意味では、本当にいろんな人に人気がある曲がトップに来やすいんですかね? ビルボードの方がオリコンよりも。
(高橋芳朗)そうですね。
(宇多丸)オリコンだったら初週にね、たとえばあるアーティストのファンがいろんな特典とかがついていてドカンと買ってドンッ!ってなることは全然あるわけで。でも、それ以外の人は聞いてないとかはザラにあることですもんね。
1回ヒットすれば長くとどまる傾向にはあるのですが、実はアメリカでも近年、”ドカンと買って(聴いて)ドンッ!”と上位に登場しながら、”ドンッ”と急降下する流れが目立ってきています。
米ビルボード、実は最近流動的でして。デジタル2指標(デジタルダウンロード、ストリーミング)+ラジオエアプレイで構成されるゆえ、デジタル効果で初週高位置に初登場を果たしても翌週急落することも多いわけで。ゆえにどれだけデジタルを維持して、動きの鈍いラジオエアプレイを高めるかが鍵 #utamaru
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) November 1, 2018
アメリカのチャート構成指標はデジタルダウンロード、ストリーミングおよびラジオエアプレイの3つ。デジタルダウンロードは昨年辺りまで週に10万以上売れているものがザラだったのが一気に減少し、2万台でも同指標で首位に。そのため現在の総合ソングスチャートにおける各指標のウェイト(重要度)は”ストリーミング>ラジオエアプレイ>デジタルダウンロード”になっている模様です。
近年はSNSで木曜に新曲解禁を匂わせ、翌日実際にリリースするパターンが増えています。これはデジタル2指標の集計期間が金曜開始となるため。ゆえに解禁後1週間フルでポイントを稼ぎ、初登場で上位にランクインする傾向が出てきています。ただしラジオエアプレイはデジタル2指標に比べて動きが鈍く、どんなに勢いがある曲でも同指標でトップ10入りするには3週以上かかるため、ラジオエアプレイが上昇するまでデジタルの勢いを維持することが重要になります。事実、テイラー・スウィフトによる「Look What You Made Me Do」は登場2週目で総合ソングスチャートを制したもののトップ10内在籍はわずか8週でしかありません。
このエントリーの冒頭で、今のチャートアクションの4つのパターンを書いています。真のヒットといえるのは③以外なのですが、その③が増えているのが現状です。そういうチャートアクションもあるという前提で見れば、曲が瞬発力によるものかそれとも持続力かが判るはずです。
(高橋芳朗)ただ、オリコンチャートも12月からはストリーミングもカウントしていくことになるんで。それがどういう影響が出るのかな?っていうのは楽しみなところですけどね。
オリコンは新年度より、デジタルダウンロードおよびストリーミングも合算したランキングを発表することにしています。しかしながらストリーミングについて、無料サービスはカウント対象外となっています。
なので、”所有”の側面が強いオリコンの新しいランキングでは、ジャニーズ事務所等アイドルが上位に来る可能性がありますね。というか、オリコンが複合指標ランキングと現状のシングルCDセールスランキングのどっちをメインにするのか…それが見えていないのが気になります #utamaru https://t.co/04yULKrkOw
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) November 1, 2018
番組放送中に自分は”所有”と書きましたが、音楽ジャーナリストの柴那典氏は”売上”という表現を用いています。これはビルボードの方式を日本に踏襲したビルボードジャパンのソングスチャートを”接触”と例えたこととの対比でもあります。自分が気掛かりだとした点も含め、以前まとめています。
高橋芳朗)で、ビルボードチャートは毎週現地時間の金曜日に新しいチャートが発表になって。まあ明日なんですけども。その明日の最新ランキングがもう発表になっています。
(宇多丸)ああ、フライング発表?
もしかしたら米ビルボードが関係者に対しては金曜に配っているのかもしれませんが、ネットでの発表は日本時間で火曜となります。早朝にトップ10(およびもうすぐトップ10)の速報記事が出ており、日本時間の火曜18時前後には全てのチャートが更新。アメリカで月曜が祝日の場合は翌日にずれることもあります。このブログでは毎週火曜、速報を訳して掲載しています(この翻訳はビルボードジャパンや、R&B/ヒップホップが強い際はbmrもそれぞれ実施しています)。現段階での最新チャートはこちら。
(高橋芳朗)そんな中、先月10月のチャートを賑わせた注目リリースを紹介しますね。まず、1枚目は今週のアルバムチャートでも5位につけているニューオリンズのラッパー、リル・ウェイン。彼のニューアルバム『Tha Carter V』。これは9月28日に出たんですけども。発売週はアルバムチャート初登場1位。シングルチャートでもトップテン圏内にいきなり4曲ランクインするという、そういう結果になっています。で、リル・ウェインをちょっと簡単に説明すると、この10年でもっとも影響力のあるラッパーの1人と言ってもいいと思うんですけども。
アルバムリリース初週にアルバムをフルではなく曲単位で購入、またストリーミングで聴くことにより、アルバムの初登場と同日付のソングスチャートで収録曲が上位に登場します。リル・ウェインは10月13日付で4曲が初登場。
また今年ソングスチャートを29週制したドレイクにおいては、アルバム『Scorpion』が初登場首位を獲得した7月14日のソングスチャートにおいて、トップ10内に同時に7曲(既発3曲+初登場4曲)ものチャートインを果たしています。ドレイク、バケモノですね。
というわけで、勝手ながら補足してみました。
自分はこの秋、地元FM局で大学生にレクチャーする形で洋楽特集行ったのですが、チャートの仕組み等きちんと伝えないとなあと実感した次第です。音楽の潮流、そしてチャートの仕組みをきちんと知らせれば洋楽への興味が増すのみならず、日本の音楽チャートにも興味を抱くようになる気がします https://t.co/U1Q0bbkA1u
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) November 1, 2018
実は先月、自分がスタッフの一員を務めるラジオ番組『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時)にて自分企画となる今年の洋楽特集を担当した際、前提としてチャートの仕組みについて紹介したのですが、これはじっくり時間をかけてやらないといけないなあと実感していたばかりでした。
アメリカのチャートと、それが踏襲されたビルボードジャパンソングスチャート、日本におけるビルボードと先述したオリコン複合指標化チャートとの違い、日本のチャートの傾向(これについては毎週木曜、ブログにて最新チャートからひとつかみという形で紹介しています)、そしてたとえばドレイク「God's Plan」や米津玄師「Lemon」という今年おそらく年間チャートを制するかもしれない曲がどうやって大ヒットを掴んだかだったりリミックスや安価販売というチャート上位進出のためのマーケティング手法などを、1時間くらいじっくり時間をかけて紹介する機会があれば…!と思っています。
チャートアクションを知るとチャートはもっと楽しくなるとか、チャートはマーケティングだ!特集とか浮かんでくるんだよなあ…と勝手なアイデアが出てくるw #utamaru
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) November 1, 2018
最後のマーケティングについては個人的な見方が強いかもですが、こういう企画を『アフター6ジャンクション』でやってくれたなら…いややりたいなあなどと勝手なことを考えている自分がいます。