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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ニッキー・ミナージュはトラヴィス・スコットを責める資格なし、嵩上げ対策を重ねても首位を獲れなかった『Queen』に思う

以前から引っかかっていたのが、ニッキー・ミナージュがトラヴィス・スコットに喧嘩を持ちかけたことなんですよね。

ニッキー・ミナージュのアルバム『Queen』は8月25日付米ビルボードアルバムチャートで初登場2位どまり。トラヴィス・スコット『ASTROWORLD』が初登場した前週に続いて首位を獲得したことで、トラヴィスへの怒りをぶちまけたという次第。

しかしこれ、客観的証拠をつかめばつかむほどニッキー・ミナージュが不利になるのです。たとえばニッキートラヴィス・スコットの2週目の実売セールスを『5万枚ちょっとしか』と言っていましたが、実際はおよそ7万8000枚。そしてトラヴィスの2週目の首位獲得が『彼がアルバムの購入特典としてライヴのプリセールに応募することのできる「シーズン・パス」を付けたからに過ぎない』とニッキーが指摘していたものの(『』内はいずれも上記NME Japanの記事より)、そのニッキーだって同様の手法を採っていたのです。

『『Queen』のダウンロードがセットになったTシャツなどのグッズ販売を始めており、さらに今年9月からの北米ツアーのチケットとのセット販売と合わせ』た、『「バンドル」と言われるセット販売方法』で数字を伸ばしたわけで、いわば同じ穴の狢なわけです(『』内は上記bmrの記事より)。

 

個人的に、アルバムがヒットする要素として考えているのは”収録されたシングル曲がヒットするかどうか”。トラヴィス・スコットの場合は『ASTROWORLD』からの先行シングル「Butterfly Effect」(2017)が米ビルボードソングスチャートで最高50位と振るわなかったものの、アルバムが初登場したのと同じタイミングで「Sicko Mode」が4位に初登場を果たし最新10月6日付(6位)まで8週連続でトップ10内をキープしています。

他方ニッキー・ミナージュはというと、アルバム『Queen』から春に2曲先行シングルとしてリリースした「Barbie Tingz」が25位、「Chun-Li」が10位、それぞれ4月28日付米ビルボードソングスチャートで記録しているのですが、翌週はそれぞれ78位、48位と大幅にダウン。アルバムからのトップ10入りは「Chun-Li」のみ、それも1週在籍という状況ではさすがにヒットとは言えません。アルバムが初登場した8月25日付米ビルボードソングスチャートでは、ニッキー・ミナージュ主演曲で最上位は「Barbie Dreams」の18位。最新10月6日付では70位にまで後退し、勢いが持続していないこともトラヴィス・スコットとの差となって表れています。

すなわち、アルバムに収録されたシングルのヒットする/しないがアルバムの成績に大きく影響するものと考えます。これはバンドルの有無にかかわらずであり、逆にニッキーの先行曲が十分な実績を収めていたならば、バンドルなしでもトラヴィス・スコットを破ることは十分出来たでしょう。

 

いや待て、ニッキー・ミナージュのアルバムからは大ヒットが出てるよ…とのツッコミもあるかもしれません。それがシックスナイン feat. ニッキー・ミナージュ( & マーダ・ビーツ)「FEFE」。

動画がシックスナイン発であること、ニッキー・ミナージュが客演と読めることを踏まえるに、てっきりこの曲は来たるべきシックスナインのアルバムに入るものだとばかり思っていました。が…見逃していました。

なおニッキー・ミナージュの場合、リリースから4日後には、『Queen』にシックスナイン(6ix9ine)との“FEFE”を追加した『Queen (Bonus Version)』を新たに配信リリースするという“アップデート”をストリーミング・サービスで敢行。ここ最近は、カニエ・ウェストが『ye』の歌詞を変更したり、ドレイクが『Scorpion』で細かな変更を行ったりといった“アップデート”を行うことも珍しくなくなってきたが、ニッキー・ミナージュの場合、全米シングル総合チャートで初登場4位、現在もトップ5をキープするなど大ヒット中である“FEFE”を『Queen』に加えることで、週間ストリーミング再生回数のかさ上げを狙ったと見られる。

トラヴィス・スコットが全米アルバム・チャート2週連続1位 ニッキーは初登場2位に | bmr(8月20日付)より

デジタル時代にあってアルバムの改変はたしかに珍しくなくなったとはいえ、個人的には”そこまでやるか!?”という感じです。もしかしたらシックスナインがアルバムに入れようとしていたのを横取りした?と邪推すら。オリジナルアルバムへの強い自信があるなら、バンドルや追加収録をせずに勝負してもらいたいですし、アルバムの初動(初週動向)を高めるべく、先行曲のマーケティングをきちんとやっていただきたいと思うのです。ドレイク「God's Plan」からの『Scorpion』などはマーケティングの最良の解だと考えます。