今年のはじめ、オリコンが合算ランキングの開始をアナウンスし、オリコンはもとより音楽業界の変革に注目が集まっていました。そして先月末、開始時期を今冬に延期する形ではありますが、その詳細が発表されました。
今回の合算に新たに加わったストリーミングについて、音楽ジャーナリストの柴那典氏が興味深い指摘をされています。
気になるのは、集計対象に世界最大のサービスであるSpotifyが入っていないことだ。
あくまで推測だが、これはおそらくランキングの設計において「有料会員によるストリーム数」にこだわったことが理由なのではないだろうか。
(中略)
同じ複合型チャートでも、オリコンとビルボードのヒットチャートの設計思想は異なっている。ラジオやTwitterなども集計対象とし、流行を可視化するため音楽との「接触」も重視する「Billboard Japan Hot 100」に対して、「オリコン週間合算ランキング」はあくまで「売上ランキング」として設計されている。それぞれの設計思想が異なるため、この先も二つのチャートは共存していくものと思われる。
・オリコンチャートが今冬ストリーミングを合算。日本の音楽市場はどうなる? - コラム : CINRA.NET(9月21日付)より
ストリーミングの有料分を重視する動きは、米ビルボードソングスチャートにおいても見受けられます。これまで有料/無料の定額制音楽配信サービスおよびYouTubeについて全て同じウェイトにしていたものを、今夏から"有料サービス>無料(広告支援等)"とウェイト付ける形となっています。
とはいえ、米ビルボードは無料分も加える形であるのに対し、オリコンは無料分は扱わない(模様である)ことから、オリコンがあくまで"売上"でのランキングを意識していると言えるでしょう。
これを踏まえ、オリコンに対する疑問が2点生じたので記載。
① シングルCDセールスに"係数"を用いるか?
ビルボードジャパンではシングルCDセールス指標において、昨年から"係数"を用いています。
・JAPAN HOT100ではシングルセールスを合算するときにどのように合算していますか。
各指標のレシオ(非公開)の平均値(半期毎)と、実数値とがかけ離れていないか毎週一般公表前に確認しています。その乖離が大きくなり過ぎる場合、全指標の計算係数を見直し、実数値と乖離が小さく、かつマーケットの占有率からも乖離が小さい計算係数を設定し、全指標を再計算しています。
シングルセールスで1位の楽曲に対しては、2017年度より、前述の理由のためシングルポイントに係数をかける場合があります。そのため、毎週のChart insight上のシングルランキングとシングルセールスチャートは同一ですが、Chart insight BizもしくはProを使って複数週で合算した場合、同期間の推定売上枚数を合算したシングルセールスランキングと異なる場合があります。
・【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANより
毎週この係数の詳細(具体的に、どの曲にどのくらいの数値が用いられているか)が不明なのが個人的に引っかかるのですがしかし、この係数があるからこそ、シングルCDセールスに長けながら他指標が不十分な曲は上位に進出出来ず、またロングヒットに至れません。その結果、最終的には上位に留まり続ける曲が社会的なヒットに比例し、ビルボードジャパンソングスチャートは社会の流行の鑑になっているといえます。昨年度の年間チャートを見た際、この点に安堵した次第。
オリコンはこの"係数"という概念を用いるのか気になります。仮に用いないとすれば、ストリーミングを合算したところで現状のシングルCDセールスランキングとさほど変わらない気もするのですが、いかがでしょう。
② シングルCDセールスランキングは残る?合算シングルランキングとどちらが重要な位置付けに?
先に取り上げたオリコンの記事を読む限り、現状のシングルCDセールスランキングをやめるというような表現が見当たりません。現在はデジタルダウンロードランキングも始まっており、そこに合算シングルおよびアルバム、ストリーミングが追加される形なのでは…そう読み取るは自分だけでしょうか。
ビルボードジャパンでも合算した総合チャートの他、各指標毎のチャートも解るようになっていますが、あくまで基本は総合チャートです。しかしオリコンの記事からは、シングルCDセールスランキングが合算シングルランキングの一要素としてその立ち位置が弱まるのではなく、"二本柱"で行くのかなと考える自分がいます。新しいランキングが"売上ランキング"と例えられただけに尚の事です。
以前、オリコンが合算ランキングを行うことを報じた直後、自分はこのようなブログエントリーを掲載しました。
ジャニーズ事務所へのオリコンの、いわば忖度を疑問に思うというのがその内容。ジャニーズ事務所はネットで写真を解禁したものの(そしてその解禁が奇しくもオリコンにおける合算ランキング実施発表のタイミングと重なったわけです)、未だデジタルダウンロードやストリーミングは行っておらず、今後も実施は不透明とみています。オリコンが雑誌を発行していた際の表紙の登場回数等を踏まえるに、事務所との縁の深さは自明。そしてジャニーズ事務所側にとっては、今後もデジタルへの取り組みを行わないままでは、合算ランキングにおける事務所所属歌手の作品の勢いは弱まってしまいます。そこで合算シングルランキングは設けつつ、シングルCDセールスランキングの立ち位置を弱まらせないとする二本柱の体裁をとれば、シングルCDセールスに強いジャニーズ事務所は片方ではあれど首位(上位)を獲ったと言えますし、オリコン側も顔を立てることが出来るでしょう。ですが、それでは合算ランキングの意義は弱まるだけですし、オリコンの改革が十分ではない印象を与えてしまいかねません。ましてや特定の芸能事務所に忖度していると思われれば、オリコンの信頼度が下がる可能性もあります。
特に②については穿った見方と言われればそれまでですが、しかしながら現状のシングルCDセールスランキングと新たな合算シングルランキングのどちらをより強く推すのかが見えなければ、やはり売上主体のランキングなんだと思われてもおかしくありません。今冬にならないとその実態が見えないとはいえ、現段階から少し訝しく思う自分がいます。今後もオリコンの動向を見ていこうと思います。