イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2018年上半期を席巻するドレイク、そのヒットの理由をチャートアクションから推察する

ドレイクの凄まじさをおさらい。

ラッパーのドレイクによる「God’s Plan」が初登場で米ビルボードソングスチャートの首位に立って以来、先週まで11週連続でその座をキープ。最新チャートはで同じくドレイク「Nice For What」に首位の座を譲ったものの、2曲でトータル12週首位の座に居続けています。ストリーミング指標では週間再生回数で歴代トップ10のうち7つを「God’s Plan」が席巻し、米ビルボードでは”Superstar”と表記されるほど、なのです。

では、「God’s Plan」は如何にして大ヒットを成し遂げたのか? それには3つのポイントがあるものと考えます。

① 敢えて1曲を捨てて「God’s Plan」にスポットを当てた

② 「God’s Plan」と一見関係ないトピックを用意しドレイクの名を広めた

③ 新曲投入で今度は「God’s Plan」を見切った

前提として、米ビルボードソングスチャートは3つの指標で構成されていることを押さえておきましょう。【デジタルダウンロード】【ストリーミング】そして【ラジオエアプレイ】。ストリーミングにはApple Music等の定額制音楽配信YouTube等の動画再生の2つの柱があります。前2つはデジタル指標でありユーザーによる即時性が強く反映される一方、ラジオエアプレイはリスナーの意志が直接反映されるわけではないため、他2指標より流行が遅くなりますがこのラジオエアプレイでのヒットこそ、より愛される良曲の証といえるかもしれません。現在のアメリカではシングルCDのリリースがほぼないため、新曲解禁は本人によるSNSでの直前のアナウンスのケースが目立っています。

 

さて、ドレイクもご多分に漏れず、1月19日に新曲をサプライズで発信しました。その結果、2月3日付チャート(以降、米ビルボードソングスチャートを"チャート"と表記します)にて初登場1位を成し遂げました。

しかしよくよくみてみると、ドレイクは2曲を同時にランクインさせています。2曲入りシングルの名は『Scary Hours』、そしてもう1曲は同日付で7位に入った「Diplomatic Immunity」。

記事でも解るのですが、「Diplomatic Immunity」にはジェニファー・ロペスとの関係性等に触れている点でよりスキャンダラスであり、そのワイドショー的視点で飛びつく人も多いのでは?と思うのですがしかし、この曲は「God's Plan」とは対照的に、7→55→83位と急降下し、2月24日付チャートでは100位圏外となってしまうのです。

この2曲同時リリース、そして雲泥の差が生まれる現象はドレイクが最初ではありません。昨年、世界的にヒットしたエド・シーランの「Shape Of You」は、「Castle On The Hill」と同時にリリースしています。前者が年間チャートを制し、後者は40位という結果に。ドレイクやエドが採った2曲同時リリースという手法は、歌手の注目度をより高めささせると共に、後に2曲に集まっていた注目を1曲に集約させる作戦なのではないか?と考えています。ゆえに、1曲を敢えて捨てるとも言えるかもしれません。エドについては2曲共にミュージックビデオが作られましたが、ドレイクにおいては「God’s Plan」のみの制作となっているのはまさにその証明といえるでしょう。

 

さて、その「God's Plan」のミュージックビデオは異色。高額の制作費を投じたと前置きしてはじまっていながらどちらかといえば質素な画となっていますが、これはドレイクが、マイアミの中でも貧しいとされる地域にどんどん寄付していったゆえ。制作費イコール寄付、なのです。

「God's Plan」の撮影がアナウンスされたのは2月初旬。

程なくして、2月16日にミュージックビデオを公開したことで、動画公開が最初に反映された3月3日付チャートではストリーミングが歴代2位となる1億170万を達成。1億超えはバウアー「Harlem Shake」とこの「God's Plan」のみという大記録に。

寄付を紹介した記事には、先述したFNMNL(フェノメナル)の記事のように、ミュージックビデオの撮影ということを表題に明記しない、ビデオ紹介を匂わせないものもみられますが、ドレイクの善意を記事で読んだ方は「God's Plan」でその詳細を確認し、善意を知らずに先にビデオを観た方は記事を検索し、その上でビデオを観返す...という誘導が出来ていたように思うのです。新曲(撮影)と善意…一見関係ないと思われる両者をビデオで結びつけた方法が、ストリーミングの大記録を打ち出し、「God's Plan」の長期政権の要因になったものと考えています。

(ちなみに、善意をミュージックビデオのネタに使ったことについては賛否あるでしょう。しかし私見と前置きして書くならば、”偽善でもやらないよりやったほうがいい”、”実際に恩恵を受けた方はいる”という点において、有りだと思います。)

なお、このミュージックビデオの仕掛けにおいて、先に比較対象として取り上げたエド・シーランはどうだったかというと、「Shape Of You」のミュージックビデオは映画『ロッキー』を思わせる主人公(エド)のトレーニングにはじまり、最後の敵がおおよそ太刀打ちできない相手、しかも力士という急展開のオチまで一気に観せて(魅せて)くれる展開。特段の仕掛けはないものの、純粋に楽しめるビデオゆえ、これも曲の動画再生回数を伸ばした一因といえるでしょう。ビデオが功を奏し、初登場首位を果たしながらその後2週2位にとどまっていた「Shape Of You」が首位を奪還し、その後の長期政権へとつながっていったのです。

 

ドレイクの「God's Plan」の動きをみるに、【直前に新曲リリースをアナウンスし期待を煽る→曲をリリース→ミュージックビデオに関する話題提供し、メディアが取り上げる→ビデオ解禁】という段階的プロモーションで、デジタル2指標に比べて火がつきにくいラジオエアプレイでも最高3位まで上昇、総合では自己最高となる11週首位を記録しました。 そしてその記録を、自身の新曲「Nice For What」が破ったのです。

通常であれば、自己最高記録を成し遂げた作品をあたかも見切るかのような新曲発信は、勿体無いことのようにみえます。しかしドレイクは「Nice For What」が1位を獲得したその日、アルバムリリースと思わせる予告を発表しました。

ドレイクがドレイクを破った…という特大記録を達成し、ドレイクのファンのみならずチャートマニアもざわつくタイミングで、畳み掛けるようにサプライズを告知したわけです。敢えて「God’s Plan」を見切ったのは、首位のバトンを自ら引き継ぎ、それが達成した絶好のタイミングでアルバムを出すと発表し、より多くの方をアルバムへと誘導するためでしょう。「Nice For What」は「God’s Plan」と異なり、リリースと同時にミュージックビデオを公開しており、ストリーミングの2本柱(定額制音楽配信および動画視聴)の双方でロケットスタートを切るべく動いたわけですから、間違いなく戦略の一種といえます。ラジオエアプレイが追いつかない限り次週のチャートにおけるランクダウンは必至でしょうがそれでも「Nice For What」の役割は大きかったですし、新曲に首位の座を譲らせた「God’s Plan」の余裕さが格好良いと思わずにはいられません。

 

今年のドレイクの快進撃は、綿密な戦略によって成されたものといえます。そしてその最終的な結果が、再来月のアルバム『Scorpion』のチャートアクションとなって表れるでしょう。無論、「God’s Plan」が良曲であるからこそヒットしたわけですが、チャートアクションにおいてもタイミング(マーケティングと言い換えても良いでしょう)が存在し、それを有効に活用したドレイクには天晴と言いたいところです。