最近めっきりみなくなってしまったと思しきアルバムの形態があります。それは【リミックス集】。昔はシングル表題曲のカップリングにその曲のリミックスがごっそり収録されていたものでしたが(その場合はアルバムではなくEPと呼ばれていたり)、CDセールスが下火になるにつれ商品が減っている気がしてならないのです。いや、一リミキサーによる(様々な歌手の)リミックス集ならば、たとえば大沢伸一さんやFPM田中さんなど出していますが、一歌手が様々なリミキサーに依頼したリミックスをコンパイルしたものとなると俄然減っている気がするのです。
そんな中で気を吐いているレーベルがあり、そこに対し最大限の賛辞を贈りたい!と思い今回の特集を用意した次第。
・藤井隆『RE:WIND』(2017)
その”気を吐いている”レーベルとは、藤井隆さんがオーナーを務めるSLENDERIE RECORD。藤井隆さんの音楽の感性が豊かであることは以前からここで何度も記載してきましたが、作品数は多くなくともミックスCDや今回のようなリミックス集を出しているのは流石です。本日リリースされたこのリミックス集は過去の音源(ソニー時代を含む)を、ベテランから若手に至るリミキサーに依頼。人選、そして勿論音も洒落ています。
・早見優『Delicacy of Love』(2016)
そのSLENDERIE RECORDから昨年久々の新曲をリリースしたのが早見優さん。新曲、カバーに加えて4曲のリミックスが用意されています。
・サカナクション『懐かしい月は新しい月 ~Coupling & Remix works~』(2015)
配信ではカップリング集とは別々に用意。きちんとリミックスという仕事に光を当てるサカナクションに敬意を評したいところ。
オリジナルアルバムのディスク2としてリミックスベストが付属。シングル収録のリミックスを中心にコンパイル。
・平井堅『Kh re-mixed up 2』(『Ken Hirai 15th Anniversary c/w Collection’95-’10 ”裏 歌バカ”』(2010) 初回生産限定盤収録)
Amazonのリンクはこちら(試聴可能)。単品リリースの第一弾から一転、リミックス集第二弾はサカナクション同様にカップリング集とコンパイルした形でリリース。そしてサカナクションと共通するのが、リミックス集のラストを2011年に急逝したrei harakami氏による作品で飾っている点。独特の音世界を紡ぎ出す方だったゆえ、もっともっと活躍してほしかったものです。リミックス集はこういう稀有な才能に光を当てる意味でも有効だと思っています。
・小室哲哉『Digitalian is remixing』(2012)
面白いのは「Vienna」のリミックスが、80年代を象徴するストック・エイトキン・ウォーターマン的、いわゆるPWLサウンドになっている点。PWLの屋台骨であったひとり、ピート・ハモンドが手掛けています。
・TM NETWORK『GET WILD SONG MAFIA』(2017)
Amazonのリンクはこちら(試聴可能)。いわゆる「Get Wild」のみでオリジナル&TM NETWORKによる様々なバージョン、カバーが収録され構成されるというとんでもない作品集。小室哲哉氏自身によるリミックスの他、新録(新規リミックス制作)として電気グルーヴの石野卓球氏等が参加しています。
他にもあると思うのですが、このあたりで。
リミックス集が出るためには、まずはオリジナルがヒットすることが前提になるであろうことを踏まえれば、ヒットが出にくくなった(といわれる)今の時代ではリミックスを出すどころかリミックス”集”を出すこと自体が難しいのかもしれません。他方、アメリカではフィジカルよりも柔軟に対応出来るという配信の利点を活かし(そしてリミックスもオリジナル版にチャート上において加算されることも知っています)、たとえばブルーノ・マーズが「That’s What I Like」の複数リミックスをリリース。そのデジタルダウンロードおよびストリーミングポイントを加算して全米チャートを制しています。そう考えると、日本のヒットの指標たるチャートがビルボードジャパンに移行していけば、そしてアメリカのようなヒットの方程式が確立されていけば、もしかしたらリミックスが再評価されるかもしれません。ただ個人的には配信ではなく、たとえばクラブプレイ(してもらうこと)を目的とするならば、オリジナルにリミックスをコンパイルした、今回紹介したような形での作品集を用意してほしいなと思うんですよね。