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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

聖俗をスムースに行き来するマリ・ミュージック、アルバムが来月発売

特定のジャンルに強い楽曲が、その枠を飛び越えて総合チャート等にもランクインすることをクロスオーバーヒットといいます。ジャスティン・ビーバー参加のリミックスにより最新5月20日付米ビルボードソングスチャートで3位まで上昇した、ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー「Despacito」もそのひとつで、ラテンソングスチャートではジャスティンが参加する前から既に1位に上り詰めており、最新5月20日付現在、14週連続でその座をキープしています。総合のソングスチャートについては下記、今週火曜のエントリーをご参照ください。

 

さて、ゴスペルの世界でもクロスオーバーヒットの兆候を持つ楽曲が登場しました。3年前にメジャーデビューを果たしたマリ・ミュージックがこの春リリースした「Gonna Be Alright」が、最新米アダルトR&Bソングスチャートで30位に初登場。一方、同日付ゴスペルソングスチャートには上位25位以内に入っておらず、聖俗のうち後者で先にヒットを獲得したことになります。

マリ・ミュージックのプロフィールはbmrに詳しく掲載されています。

R&B歌手のエイコンのレーベルに一時所属というのも面白いですし、所属時に一部ゴスペルファンから批判を受けたことも、語弊があるかもですが興味深いですね。ゴスペルファンに限らず、どんな分野においても超がつくほどの保守的な方は存在するものだなあと。ゴスペルと密接につながるキリスト教における、同性愛への一部保守層からの偏見も同様で、そのことは以前ここで書いたことがあります。

そのようなゴスペル界にあって、昨年はカーク・フランクリンがカニエ・ウェストやチャンス・ザ・ラッパーの、上記ブログで取り上げたキム・バレルはフランク・オーシャンの、それぞれ高く評価されたアルバムに参加しており、聖と俗が以前よりも行き来しやすくなった感じがします。それを踏まえれば、保守的な考えが時代遅れになって来ていることも理解出来るでしょう。

 

マリ・ミュージックについても、先述したR&Bチャートへのランクインが示す通り、聖と俗を行き来する方と言っても過言ではなく、今年はホセ・ジェームス「Let It Fall」に参加、また映画『Chi-Raq』(2015)にジェネイ・アイコとの「Contradictions」を提供しています。

メジャーファーストアルバム『Mali Is...』(2014)からのシングル、「Beautiful」は日本のR&Bコンピレーションに収録。一方で同曲はゴスペルヒットのコンピレーションアルバム『WOW Gospel』シリーズには収録されず、ファーストアルバムから選ばれたのはよりゴスペリックな「I Believe」(『WOW Gospel 2015』収録)でした。こういうところからも聖俗シームレスということが解りますし、R&B的な音を入口にしてマリ・ミュージックにハマり、ゴスペルそのものに没頭していく人も生まれるかもしれません(そして逆もまた真なり)。それはとても素晴らしいことだと思います。

現段階でアルバムの詳細は未定ですが、先行曲が素晴らしいだけに個人的な期待は高まっています。 

 

なお、音楽プロデューサーの松尾潔さんが先日、自身のラジオ番組でこの新曲に触れています。冒頭に用いられている一節等について、下記の文字起こしを是非ご参照ください。