昨日放送の『MUSIC STATION SUPER LIVE 2016』(テレビ朝日系)の大トリを飾ったのが桑田佳祐「ヨシ子さん」というのがなんだか妙に痛快でした。
すごいなあ、今年の #Mステスーパーライブ2016 の締めが「ヨシ子さん」…これ、今年のアメリカの音楽シーンの流行りについて歌詞では揶揄しているようにみえて、実は今年のトレンドだったレゲエテイストを柔軟に取り入れているという。なんという桑田節
— Kei / BreastKonaka (@Kei_radio) 2016年12月23日
この「ヨシ子さん」については、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんの解説などを踏まえつつ、以前記載したことがあります。
今のトレンドなんて分からん!と歌いつつ実は(リリース当時)最先端だったレゲエテイストを踏襲というのは流石でした。そして昨日はパフォーマンス中に幾度となく"素晴らしいパフォーマンスをありがとう"と、全ての歌手を称え労う言葉も添えていました。この言葉、今年も自身のラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM / JFN系 土曜23時)で"2016年邦楽シングル・ベスト20"を選出した桑田さんだからこそものすごく説得力がありましたね。邦楽を広く愛する桑田さんの思いを実感した次第です。
実は、長尺の音楽番組、今の音楽業界そして桑田さん…で思い出したのが、今月7日の『2016FNS歌謡祭 第1夜』に登場した長渕剛さんによる「乾杯」でした。どんな内容だったのかはバナナマンがラジオ番組で取り上げていますのでそちらを読んでいただければお分かりになるかと。
(勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除させていただきます。)
こちらではフジテレビ系の放送局がないためリアルタイムで聴くことが出来なかったのですが、SNSを介してざわつく声が聞こえてきたのを覚えています。
この長渕さんのパフォーマンスには、フォークソング全盛の時代にあふれていた怒りという感情が込められていたのは確かですが、テロップとして表記されている段階で既に予定調和ではないかと興ざめしてしまった方が多いとも聞きます。まして、メディア非難(この内容自体は同調すること多いですが)を、メディアど真ん中のテレビで行うのは意義あれどなんだか違和感が残るのです。
そしてなにより、【歌の安売りするのも止めろ】【日本から歌が消えていく】【騙されねぇぜヒットチャートランキング】という言葉にははっきりいって納得出来ない自分がいるのが事実。ひとつの大ヒットから派生曲が生まれたり形式的なJ-Popが生まれている点では同意出来なくないとしても、その中にあって今年も数多くの素晴らしい楽曲が生まれ、人々の心に残り未来に歌い継がれていきます。ヒットチャートにおいてもビルボードジャパンのような複合指標が浸透することで好い曲がより残りやすい(チャートの上位を維持する)形が見える化しています。果たして長渕さんは、これらをちゃんと見ているのか、いやそもそも見ようとしていないのではないか?と思うのです。まさしく”33歳までに音楽的嗜好が固まる”という研究結果から思ったこと(2015年5月20日付)で書いた違和感を長渕さんに強く感じてしまいます。
また、形式的なJ-Pop…それこそ長渕さんの言葉を借りれば"安売りされた歌"が売れていたとして、その売上をもってレコード会社は次の有能な才能育成に回していくわけで、必ずしも"安売りされた歌"が絶対悪ではないはず。なによりその歌を購入した人までも、間接的ながら長渕さんは罵倒したことになるのではないかと考えざるを得ません。売上面での貢献でいえば、長渕さんは今年リリースの作品がライブアルバム1作品のみでシングルはないわけですから、安売りなどと他者を咎めるよりもまずは長渕さん自身が見本となるような曲を作り、実際にリリースして、自身の素晴らしい新曲で説得させて欲しいと思うのです。そしてその曲を売ることで、レコード会社も潤し、次の才能を育成する資金を調達したほうが遥かに有益ではないかと思いますし、長渕さんならきっとそれが出来ると思うのです。それゆえ、ただただ非難に勤しむ姿を知って悲しくなったことを記させていただきます。
桑田さんと長渕さん…四半世紀前に犬猿の仲と言われた二人が実は同じような"今のポップスの流行"をきっかけに曲を紡ぎ出していた2016年。しかしその辿り着いた先は正反対でしたね。個人的には、桑田さんの姿勢を強く支持します。
ちなみに。桑田さんも世を憂う歌(特に政治非難的なもの)を送り出していることがあり、そういう"非難ソング"には誰が作った曲であれ辟易するのもまた自分の中にある素直な感情だったりします。特に政治において、政治の体たらくを非難する人が多いのは理解出来ても、最低限の政治行動たる投票を放棄している人が多い以上、政治が市井を舐める(特に投票率の低い若者への政策を軽視する)ことが続くのは自然なことかもしれず、ゆえにそこに"非難ソング"を投下したところでより投票放棄を招き、投票率が低下して何も変わらないどころかより悪くなっていくだけではないかと思わざるを得ません。ならば投票率を上げるために(それが形式的なものであったとしても)市井に呼びかけることことこそまず必要でしょうに、そういう"奮い立たせソング"をほとんど見聴きしたことがないのが非常に残念でなりません。
今自分が思い出せる唯一の"奮い立たせソング"を紹介させていただきますので、桑田さんも長渕さんも、そして多くの歌手のみなさんも"奮い立たせソング"を書いていただきたいと強く思います。
・RHYMESTER「The Choice Is Yours」(2012)