イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「ヨシ子さん」は音楽の流行を捉えている?

先月末にリリースされた桑田佳祐さんのシングル「ヨシ子さん」。

セールスチャートでは首位獲得には至らなかったものの、複合指標によるビルボードジャパンHot100では7月18日付にて5位にランクイン(セールスポイントが反映され始めた前週は2位)。同日発売で、桑田佳祐さんを抑えてセールスチャートを制したGENERATIONS from EXILE TRIBE「涙」は前週の1位から13位に後退しており、「ヨシ子さん」はセールス以外の指標も高いことが解ります。この曲はテレビ番組でパフォーマンスされる機会が多く、タイトルのインパクトも相俟って知っている方は少なくないでしょう。

 

正直言って、個人的には歌詞にムッとくることが無くはなく。自らの努力不足やアンテナの鈍りを安易且つ無責任に年齢のせいにするなよと思ってしまうのです。そういえば以前こんなエントリーも残しました。

ですが、この曲におけるスタンスを、”ジジイのふりをするジジイ”と表現したジェーン・スーさんの言葉に、溜飲が下がる思いがしました。『ジェーン・スー 生活は踊る』(TBSラジオ 月-金曜11時)におけるこの発言は、7月8日(金曜)のコーナー、高橋芳朗のミュージックプレゼントにて、音楽評論家の高橋芳朗さんが分析した内容に対する反応でした。

コーナーの書き起こしは下記に。

「ヨシ子さん」の背景にレゲエがある、という指摘の中で高橋芳朗さんが紹介していたのはジャスティン・ビーバー「Sorry」、リアーナ feat. ドレイク「Work」そしてドレイク feat. ウィズキッド&カイラ「One Dance」(発売順に並べ替えてみました。これら3曲のミュージックビデオは書き起こしのリンク先で確認出来ます)。「One Dance」は番組放送後も1位を続けており、7月30日付最新チャートで通算10週目となる首位を獲得するほど大人気となっています。

自分は当初、「Sorry」はトロピカルハウスの範疇と捉えていたのですが...なるほど、リズムを重視して聴くとたしかにレゲエ的ですね。この曲が収録されたアルバム『Purpose』からの先行曲、「What Do You Mean?」は完全なトロピカルハウスでしたので音の質感的に「Sorry」もそうだと思ってしまっていました。いや、トロピカルハウスでもありレゲエでもあるというのが最も相応しい表現かもしれません。

 

実は今、アメリカのチャートではレゲエ流行りなのです。最新チャートで3位に急伸したシーア feat. ショーン・ポールの「Cheap Thrills」もそうですし(シングルカットするにあたりショーン・ポールを招いたことでよりレゲエ感が高まっていますし、こちらも薄くトロピカルハウスが敷いてある感じがします)、アデル6曲目のトップ10ヒットとなった「Send My Love (To Your New Lover)」(最新チャートで10位に到達)も聴き方によってはレゲエ的な感じもします。「Send...」は正直アデルの中でも異質な感じがして、(プロデュースした)マックス・マーティンとシェルバックのご乱心か?とすら思ったのですが...なるほどこの曲をシングルカットしたというのは今の流行に乗っかってのことかなと。

またR&Bシンガー、ケント・ジョーンズのデビューヒット「Don't Mind」(最新チャートで9位)に至ってはその歌い方(フロウと言い換えてもいい)も含め、R&Bよりレゲエと言っても過言ではない出来栄え。そしてガールズグループ、フィフス・ハーモニーがフェティ・ワップを客演に招いた「All In My Head (Flex)」はイントロのギターからしてレゲエのリズムですね。こちらは最新チャートで29位に上昇しています。

さらに、ビデオはないものの最新チャートで16位に上昇し「One Dance」に次ぐトップ10を狙うドレイク「Controlla」も、シンプルなオケながらウワモノのシンセがレゲエ的清涼感を演出するのみならず、中盤にはなんとビーニー・マンが登場する(ビーニーの「Tear Off Mi Garment」(→YouTube)がサンプリング使用される)ことから、こちらも完全なるレゲエ的アプローチ...というわけで、最新チャートをざっと見渡してみるとこんなにもレゲエな曲が存在するわけです。最早完全なるムーブメントを形成していますね。

 

尤もレゲエシーンではコンスタントに全米チャートを賑わすヒット曲が出ています。イギリス発のコンピレーションシリーズ『Now』から先月発売された3枚組『NOW That’s What I Call Reggae Party』にはオーミ「Cheerleader」(リミックスが2015年に1位)、マジック!「Rude」(2014年に1位)といった作品も収録。新旧網羅されていますのでよければチェックを。トラックリストは下記リンク先に。

 

レゲエは常に人気のジャンルでありながら、その中で今年はレゲエを根底に持つR&Bやヒップホップ、トロピカルハウスそしてポップソングが一気にヒットに至っている状況と言えるのかもしれません(その中でショーン・ポールというレゲエの本家を招きポップチャートに担ぎ出したシーアのストレートなアプローチは個人的に好感が持てます)。そして「ヨシ子さん」はそれら洋楽のトレンドをいち早く落とし込んだ邦楽かもしれず...桑田佳祐さんの嗅覚恐るべし!ではないでしょうか。

 

 

ちなみにあくまで個人的な感想ですが、「ヨシ子さん」を聴いていち早く思い出したのは、20年前の世界的な大ヒット曲、ロス・デル・リオ「Macarena (Bayside Boys Mix)」でした。前にも書いたのですが、同じCDに収録された「大河の一滴」のAメロがグロリア・ゲイナー「I Will Survive (邦題:恋のサバイバル)」を彷彿とさせたこともあり、つい懐古主義的アプローチを施したのかなと考えていたのです。

ちなみに「Macarena」のオリジナルバージョン(→YouTube)を元に、キューバのジェンテ・デ・ソーナが本家ロス・デル・リオを招いてカバーしたパフォーマンスの模様がつい先週公開されました。まさか本家マカレナも一連のレゲエムーブメントに乗っかってくるのでしょうか。