先週以降、JASRACに関するニュースがネットを中心に大きく取り上げられています。
お店が著作権使用料を払わずにBGMとして音楽を流すのはダメ――。日本音楽著作権協会(JASRAC)が9日、15都道府県の171業者、258施設に対し、使用料支払いなどを求める調停を各地の簡易裁判所に申し立てた。
・無断でBGMダメ! JASRAC法的措置に店は困惑 (朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース(6月10日付)より
JASRAC側はこの件に関するプレスリリースをホームページに掲載。
・BGMを利用する全国258施設(171事業者)を一斉に法的措置 - JASRAC(6月9日付)
この件により、施設等からの問い合わせが多くあったのでしょう、12日には下記の内容をトピックスに掲載しています。
・BGMの著作権手続きに関するよくあるご質問(6月12日付)
そして、上記の件を踏まえ昨日Yahoo!トップページにも掲載された下記のニュースが、Twitterでトレンドになっていました。
・店でBGMを流したいがJASRACに金を払いたくない場合にはどうしたらよいか(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
タイトルに引っ掛かりを覚えたのですが、それについては最後に。
上記ニュースにおいて、著者の栗原潔氏は私見と前置きした上で、『もう少しわかりやすい仕組みにしてくれないものかと思います』と結んでいます。たしかに、先にリンクを掲載した"よくあるご質問"の中に申請書類があるものの、分かりにくいような気がしますし、インターネット上での申請が不可という(厳しい物言いですが)時代遅れな点もアンフレンドリーです。そして問い合わせようとして担当支部を確認してみると、たとえば自分の住む青森は仙台支部の管轄ゆえ(支部連絡先一覧を参照)、仮に電話のやりとりできちんと解決されなかったら...と思うと途方に暮れる...というのが正直な感想です。
では著作権手続きを完了した場合、全ての問題が解決されるかといえば、そうではありません。
買ったCDをそのままプレイする場合は良いのですが、CD-Rに焼いたり、パソコンにリップしたCD音源をプレイしようと思うと、演奏権だけではなく、複製権の処理が必要になります。そして、複製権の処理になると著作権者(JASRAC)だけではなく原盤権者(レコード会社等)の許諾が必要になってきますので、現実的には許諾を取るのは困難になります。
・店でBGMを流したいがJASRACに金を払いたくない場合にはどうしたらよいか(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュースより
市販のCDはOK、CD-Rや携帯音楽プレーヤーはNGということ。たとえばカフェを経営しようとして著作権申請をしても、カフェ向けのBGMプレイリストを携帯音楽プレーヤーに作成して流すということは出来ません。お気に入りのCDがあったとしてもその一枚だけリピートし続けると飽きられかねませんし、クリスマスや桜の季節などの時流に合わせた選曲をするならやはり携帯音楽プレーヤーのほうが便利ではないかと。施設により合ったBGMを用意するには、個人的には携帯音楽プレーヤーが最善だとは思うのですが。
そんな折。店舗BGMの新サービスがこのタイミングで発表されました。
・USEN×レコチョクによる新BGMサービス発表、華原朋美も花束とともに登場 | Daily News | Billboard JAPAN(6月15日付)
オリジナルのプレイリスト作成や自由な選曲、曲の割り込みも可能で、持ち合わせている楽曲数も多いことから、これまでの有線とは異なりかなり便利だと思います。
しかし、別の報道を見るとある疑問が。
USEN 取締役会長 宇野康秀氏は「弊社調べで、BGM利用業種店舗は305万件。うち、iTunesでダウンロードした曲や購入したCDの楽曲などをスマホやPCで流す違法・不適利用店が46万件ある。月額料金を支払えば安心してBGMを利用できるので、新規開拓の店を含めて導入してほしい」と説明する。
最近では、BGMを利用していながら音楽著作権の手続きが済んでいないとして、日本音楽著作権協会(JASRAC)が6月9日に全国の171事業者・258施設に対して全国の簡易裁判所に民事調停を申し立てを行ったことが記憶に新しい。JASRACは2002年からBGMを流す施設の著作権管理を開始しており、業務用BGMとして音源を利用する場合は店舗ごとに著作権の手続きが必要になる。こうした流れを受け、宇野会長は「各店舗のイメージに合った楽曲を安全に使って空間作りに生かしてほしい」と話す。
・違法BGM利用店舗は46万件:「合法的に店で音楽を流せる」 USENとレコチョクがiPad向けに店舗用BGM配信アプリ「OTORAKU」を提供 - ITmedia LifeStyle
ニュースの題目に"合法的に"、そして"違法BGM"を敢えて謳うところを見ると(それを名付けたのがITmedia側だとしても)、穿った見方を覚悟で書くならば、先週の一斉摘発はこの新サービスへの囲い込みを目的としていたのではないか?と思うのです。
煩わしいとされる著作権登録は、新サービス締結時にUSENが代行するため不要となり、たしかに便利です。しかしその代行自体、JASRACがUSENと結び付きが強いために出来ること(先述したプレスリリースでも、全国有線音楽放送協会との結び付きの強さが分かります)。著作権が十分浸透していないというJASRAC側の危機感から先週の一斉摘発につながったのだとばかり考えていたのですが、仮に、その摘発により施設側の不安感を煽った上でこっちのほうが安心ですよとジャストタイミングで新サービスを紹介するという一連のストーリーを立て、その導入部として摘発を用意していたのだとしたら、摘発行為を自身の利益確保のために用いるというその考えはあまりに許しがたいことだと考えます。その行為は同時に、広く市井に著作権の啓蒙(再考)をもたらすものとは真逆の、JASRACは悪という短絡的な発想、著作権について考えることを止めさせる(思考停止となる)だけではないかと思うのです。
著作権は大事な概念です。気をつけよう! 著作権の侵害とルールについて|2.著作権はなぜ必要なの? - ジュピターテレコム等に掲載された内容を読めば理解出来ると思います。その観点において、管理団体による管理は無論重要なのですが、著作権を自身(と自身が結託する企業と)の新サービスのための道具に用いるようにすら見えるのは、管理団体として如何なものでしょう。新サービスがユーザーにとって魅力的でこれまで以上に融通のきくものゆえ、尚の事残念に思います。もっともっと、著作権の概念を徹底させ、特にインターネットが当たり前になった現代においてはそれを使うすべての人が最低限の知識を持ち合わせるべく啓蒙すべきではないでしょうか(同時に、著作権などをネット時代に則したものに改正することも必要でしょう)。それを徹底した上でそれでもダメなら摘発...というのであればまだ解るのですが、啓蒙が不十分な状態にも関わらず自分たちの責任には目を瞑って外への荒げた行為は徹底しているということがあるゆえ、"カスラック"などと揶揄されるのです。まずは最低限の啓蒙をあらためて徹底していただきたいですし、利益優先という考えは捨て、よりやわらかな対応をJASRACには求めたいところです。
最後に、先に引用した記事への違和感について。"JASRACに金を払いたくない"というのは必ずしも正しいわけではなく、JASRACを介して著作者に払われるのではないかと。タイトルの付け方は、JASRACがあたかも敵だと捉えられないという点において悪意が透けて見えるようですし、その悪意に飛び乗った人が多くいたため"カスラック"という揶揄や侮辱表現がここ最近目に付くのです。
そういう悪意を口にしたり、悪意を持ち合わせたもの同士で悪口大会に勤しむより、JASRAC、そして著作権の何が問題なのか、どうすれば解決に至ることが出来るかを、感情論にならずに客観的に分析して提示し共有するほうがより未来がある(つながっていく)でしょう。記事の著者は客員教授という地位にあり、より説得力を持ち合わせているのですから尚の事。いや、肩書の有無に関わらずその姿勢を持ち合わせないと、現状の侮辱表現では相手が考えを硬直させ更なる強硬手段に出る可能性すら生まれかねません。JASRACの改善同様に、広く市井のJASRACへの意識改革もまた必要でしょう。