【吉田一郎不可触世界】...読み方は、”ヨシダイチロウアンタッチャブルワールド”。なんだか摩訶不思議なネーミングのこのアーティスト。『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 毎週日曜13時)、5月24日付チャートで93位に初登場した「見慣れた街」を歌っているのが、ZAZEN BOYSのベーシストである吉田一郎さんのソロプロジェクトなのです。
・ザゼン吉田ソロプロジェクト「吉田一郎不可触世界」始動 - 音楽ナタリー (4月23日付)
恥ずかしながらノーチェックだったのですが、ナタリー、そして公式サイトには5月13日にリリースされたアルバム『あぱんだ』に収録された別の曲「暗渠」(あんきょ、と読みます)のミュージックビデオが掲載されていたので(ちなみに「見慣れた街」はミュージックビデオがない模様)、聴いてみたところ...これがとんでもない作品でした。80年代特有の音の質感を基調としながら、混沌とした言葉と上乗せされる音の数々が主人公の葛藤を浮き彫りにした作品。ラップ(のようなもの)は決して韻を踏んでいるわけでもないため不穏な感じを抱くのですが、聴いた後にはなぜか爽快感が残るという。不思議な味わいの曲だったのです。
歌詞はこのような感じ。歌詞サイトには未掲載でしたので、書き起こしされたものを。
・Twishort / naozen: 吉田一郎不可触世界 “暗渠” <歌詞書き起こし> …
”赤い衝動”、”妄想でとどまる登校拒否”、”辛うじて生きてる”...暗渠を見つけたことで様々な記憶が呼び起こされ、バラバラの思考回路に襲われた主人公。嫌な思い出に苛まれて水面を蹴る姿は、あくまで私事ながら自身の過去とリンクし過ぎていて思わずハッとさせられました。あまりにもリアル、ですが音が非常に心地良く振り切れているゆえ、清涼感すら抱いてしまうのです。
彼の公式サイトには、『あぱんだ』の彼自身による全曲解説が掲載。「暗渠」についても触れています。
暗渠
「あんきょ」と読む。上下水道整備、宅地造成、区画整理などの経緯で地下に隠された川。 私が禁煙中、フツフツと浮かんできた妄想をこんこんと流れる地下河川に溶かし込むつもりで書いた曲。スタインバーガー社製ベースの粘っこいフレーズに、パラパラを踊っていそうな軽薄なシンセサイザーサウンドを絡めた。ギターソロはファンクバンドCAMEOを意識しつつ勘で作った。歌詞、ラップは自分の妄想を切々と語る男を意識した記憶。
R&B好きな(一方でロック系には正直疎い)自分が一聴してハマった理由はファンクもが根底にあるからなのか、とこれまた納得。こうなると彼が紡ぎ出した他の音や言葉達聴きたくなってきました。
内省的な作品を世に放つ際、どこまでも深淵に向かおうとするアレンジを施すのが主流なのかもしれませんが、「暗渠」は言葉も上乗せされた音も重いながら一級のエンタテインメントとして昇華されており、もしかしたら「暗渠」のようなアレンジのほうが、歌詞の世界がよりダイレクトに届くのかなと思ったり。吉田一郎不可触世界、とてつもない方です。